苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

フォーマットが変わってつまらなくなった長寿ダンス競技番組、So You Think You Can Dance

アメリカには"So you think you can dance"という人気長寿ダンス競技番組がある。私は自分は踊れないが踊りを見るのが好きなのでこの番組が始まった20年前の2004年夏からのファンである。

この題名の意味は「あなたは自分が踊れると思ってるね」いう感じだが、これは「じゃあどれだけ踊れるか見せてごらんよ」と続くのを期待する言い方である。というわけでこれは踊りに自信のある若者10人が毎週色々な踊りに挑戦して最低点を取ったダンサーが脱落していき、最後に残った一人が優勝するという番組である。

私は最初の10年くらいは毎年観ていたのだが、数年前にケーブルをキャンセルしてからずっと観ていなかった。ところが最近入手したスマートテレビでは放映済みのテレビ番組のいくつかを無料で観られる。それでミスター苺と私は久しぶりにこの番組の最新シーズンである、2024年3月放映のシーズン18を観た。

審査員は番組の産みの親でシーズン1からずっと審査員長を務めていたナイジェル・リスコーとほぼ毎シーズン審査員を務めたマリー・マーフィーはシーズン16を最後に降板しており、今回の審査員は社交ダンサーのマキシム、リリカルのアリソンそしてヒップホップのジョジョMaksim Chmerkovskiy, Allison Holker, and Jojo Siwa)らである。

実はこの番組はシーズン17からそのフォーマットを変更した。それまでのシリーズでは先ず最初の2~3のエピソードでアメリカ全国各地で行われたオープンオーディション(誰でも列にならんで順番を待って受けられるオーディション)で様々なタイプのダンサーが30人くらいに絞られる。その後一か所に集まって様々な振り付けに挑戦し、さらに最後の10人に絞られる。この最後の10人が男女一組づつのペアになり、毎週違うタイプの踊りに挑戦する。ダンスの種類はヒップホップ、リリカル、ジャズ、社交ダンスなど色々である。

私はシーズン17を観ていないが、18を観る限り、この最初のオーディションのエピソードからそれまよりずっとつまらなくなっていた。今回はオーディションには観客はおらず審査員だけで家族も来ていなかった。また参加者の踊りにあまり多様性がなく、ほとんどがリリカルスタイルで、社交ダンスやバレエやタップダンスなどは一握り。ヒップホップですら際立って上手な人が居なかった。また以前のシリーズでは技術は劣るがユニークな振り付けやスタイルの参加者がおり、観ていて面白かった。これはあくまでもエンターテイメントであり体操競技ではないので、いくら上手なダンサーでも同じような振り付けのダンサーが何人も続くと退屈する。

最初の30人くらいに絞られてからも何故なのか解らないのだが昔のような興奮がなかった。この時点で参加者たちはプロの振り付けに従って他の参加者と一緒に同じダンスに挑戦する。以前はこの段階でも参加者たちは三日ぐらい毎日違う振り付けに挑戦させられ、その度に人数が減っていくので観ている方もハラハラしたのだが、今回は振り付けは一本だけで、いくつかに分けられたダンサーたちが審査員の前で同じ踊りを一回おどっただけで最後の10人に絞られてしまった。視聴者は、なんかブロードウェイに出演する群舞アンサンブルの事務的なオーディションを観せられているようで、個々のダンサーたちの個性を見極める暇がなく、誰を応援しようという感情移入が出来ないまま最後の10人が決まってしまったのだ。

さて遂に(と言う気持ちにもなれない)最後の10人が選ばれたのだが、今回はこれまでのように男女5組にわかれるのではなく、回ごとにュージックビデオ、ブロードウェイ、映画、というテーマにそり、二つのグループに分けてそれぞれ踊るというフォーマットになっていた。しかしこれだと一回の番組で観られるダンスは二つの群舞と下位二人のソロだけだ。以前なら最初の週は五組のダンスと下位二人のソロダンスで少なくとも7つのダンスが観られた。脱落者が出る度に残りの時間は群舞や二つ目のダンスなど色々工夫されていた。

ところが今回は合計四つのダンスしかないので余った時間はどうでもいいことで時間がつぶされている。まず10人が同じ建物で合宿するので合宿所での私生活の様子や、群舞の練習の時間、完成品をビデオで観た審査員の感想などで番組の半分がつぶれる。私はいったい何時になったら肝心の踊りが観られるんだ!と叫びたくなった。

しかし一番問題なのは参加者が挑戦する踊りのスタイルに多様性がないということだろう。一言で言えば踊りはほぼすべてリリカルで多少ヒップホップ風味があると言った程度だった。そしてほぼすべての振り付けが平凡でつまらなかった。

以前のフォーマットでは参加者は自分の専門のスタイルではない踊りに毎週挑戦しなければならなかった。だから視聴者は毎週違うスタイルのダンスを観ることができておもしろかったのだ。それに専門外のスタイルを踊るとなると、それぞれのダンサーの弱い点や強い点が現れる。最初は目立たなかったダンサーも回を追うごとに成長していくのが観られたりした。また振り付けもそれぞれ個性的でいまだに記憶に残っているナンバーがいくつかある。

今回は振り付けがどれも似たようなものばかりだったので、トップ5に絞られた時には残ったダンサーは全員リリカルダンサーだった。ボールルームダンサーもヒップホップダンサーも実力を発揮することが出来ないまま脱落してしまった。

それでソロナンバーになっても、皆同じようなダンスばかりでつまらないったらない。繰り返すが、いくらうまいダンサーでも同じようなダンスが続くのはつまらない。また審査員たちがおおげさにダンサーたちを褒めちぎり、何かというと泣き出すのも興ざめだ。もう少しナイジェルがしてたみたいな辛口批評があってもよかったのではないだろうか。

というわけで、久しぶりに見た番組だったが、このフォーマットをこれからも続けるのなら来シーズンからはもう見ないだろう。