苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

西洋人ユーチューバーに中共の魔の手が伸びる

先日ちょっとホワイトモンキーと言われる怪しげな仕事をしている在中西洋人たちの話をしたが、その中で最近中国共産党がスポンサーになっていると思われる西洋人ユーチューバーたちの話をちょっとした。それに関して特集している記事(2020年1月の記事)を見つけたのでそれを読みながら私自身が観たこともあるユーチューブチャンネルについて色々お話していきたい。

何度かお話してきたように、中国共産党は自国PRに余念がない。中国本土ではユーチューブは一応違法ということになっているが、ご存じのように中国には色々と抜け穴があり、中国人はVPNなどを使ってユーチューブを観ることもビデオを作ってアップすることもできる。

最近欧米のユーチューバーたちに中国から不思議なメールが来ることが多くなった。中堅どこのユーチューバーたちに、親中共ビデオ(プロパガンダ)をアップロードしてくれたら謝礼を出すというもの。それが一回500ドルから1000ドルくらいの相場らしい。

読者諸氏も五毛(ウーマオ)と呼ばれる中国共産党工作員たちの存在をご存じだろう。中共政府が一般人に対しオンラインで愛国的なことを書く度に50銭払うという噂から生まれた名前で、英語ではザ・フィフティーセンツアーミーと訳されている。現実には政府からお金をもらって書いている人よりも、愛国心から自らボランティアで西洋のSNSなどに親中共プロパガンダを書いている人々のことを指す。まあ行ってみれば中国人ネットあらしである。

私自身、ツイッターなどで中国共産党批判を書いたりすると、日本語や英語で明らかに五毛と解る人たちからいちゃもんがつくことがある。彼らのいうことはあまりにも稚拙なプロパガンダなのですぐ解る。

It may mean just 5 cents in fact.

しかし西洋のユーチューバーに自分のビデオをあげてくれなどと言ってくる連中は普通の五毛ではなく、中国政府とつながりのある奴らだと思って先ず間違いない。中共が自分らでつくったビデオを自分らでアップしても西洋人は真面目には受け入れないだろうが、親しみあるユーチューバーのチャンネルでアップされれば、「へえ、そんなもんかな?」と思う可能性はある。無論それが中共の狙いである。

バート・バーカー、元大人気アメリカのユーチューバーも今や中共の広報員に身を落とした Bart Baker.

最近の中国共産党による西洋人勧誘はかなり積極的だ。外国で活躍する西洋人はもとより、中国国内にいる西洋人にはかなり圧力をかけ親中国情報を発信させている。

中国国内で外国人が仕事をするとなると出来ることは限られている。中国には本国で人には言えない過去を残して来た人間も少なからず居る。そんな人間が中国政府のいいなりになれば貴族のような生活が出来るとなれば、もともと信念などない人間にとっては渡りに船である。

そんななかであからさまに中共プロパガンダを恥も外聞もなく垂れ流しているのがネイソン・リッチというアメリカ人。この男はアメリカで麻薬売買などで捕まったこともある前科者。ところがなぜか中国において一夜にして人気ユーチューバーとなった。私もこの男のことはよく知っているが、それというのも私がファンのADVChinaのウィンストンに個人的な恨みがあるようで、ウィンストンへの個人攻撃ビデオを何度か掲載しているのを見かけたからである。

ネイソンはたいして中身のあるビデオを作っているわけでもないのに、短期間で385000人の登録数。

ネイソン・リッチ

ネイソンのビデオは全面的に中共(CCP)のプロパガンダだ。題名も「ニューヨークタイムスの香港プロパガンダ」 とか「アメリカの香港植民地政策法」などといったものばかり。中国在住の他の西洋人ユーチューバーたちも、ネイソンは前科者なのに中国でどうやって居住権を得たのか不思議だと言っている。また他のユーチューバーも、ネイソンはユーチューバーではない、ただの中共広報部アナウンサーだと語る。中国内外国人ユーチューバーの間でもネイソンはあまり評判が良くない。

前出のウィンストンも、ネイソンのすべてのビデオに完璧な中国語字幕が付いていることもおかしいと語る。「正しい中国語字幕を付けることはビデオを作ったり編集したりするより大変だ」とウィンストン。しかし中国人に20ドルも払えば字幕くらい簡単に作ってもらえると言うブロガーもいるので、これはちょっと微妙だ。とはいえ英語をきちんと理解できて正しい中国語字幕を付けられる人が20ドルで雇えるのかどうか、それを確かめるすべはない。

ADVChinaのウィンストンはもともとSerpentZAという名前で中国発ユーチューバーとしては一躍人気者となった。中国に関する情報を流していた在中ユーチューバーとしては一番の大物と言っていい。ウィンストンは今はカリフォルニア在住だが、在中当時からネイソンが常に目の敵にしている人物でもある。在中西洋人ユーチューバーたちのあいだではネイソンの突然の人気は中国共産党がスポンサーになっているからだともっぱらの評判である。

中国で親中共の内容を発信しているユーチューバーはネイソンだけではない。 Barrettという親子でやってるイギリス人チームも「西洋メディアは中国について嘘をついている」とか「中国のカメラ監視はすばらしい」などといったプロパガンダに加えてSerpentZAを攻撃する広告を流したりしている。彼らのチャンネルは2019年6月に始まったばかりだが、すでに1万6千の登録者がいる。この親子も他のユーチューバーからは疑いの目で見られている。在中7年でユーチューバー歴2年のイギリス人Alex Absoluteは、中国に住んで一年足らずで中国語も話せない人間が中国の政治についてどんな意見があるのか不思議だと語る。

Gweilo60 はカナダ人のご隠居さんで奥さんが中国人。この人のビデオは私も何回か観たことがある。たいていの場合彼は中国の美しい景色の中を歩きながら、いかに中国に住めることが幸せかを語っている。特に政治色はないが、それでも常に中国の方を持っていることは確かだ。彼はインタビューには応じないがその理由を自分のビデオで説明している。

この記事が書かれたのは去年の1月だが、最近ではCGTNという中共のユーチューブチャネルにジェイソンというイギリス人が現れて、いかに西洋メディアが不公平に反中国であるかを語りながら美しい背景のなかを歩き回るビデオも出回っている。

A still from one of SerpentZA and Laowhy86’s videos.

さて、改めてSerpentZAのウィストン・スターゼルとそのパ=トナー Laowhy86のマット・タイをご紹介しよう。ウィンストンは南アフリカ出身の白人男性、マットはカリフォルニア出身のアメリカ人。二人とも最近まで中国に住んでおり在中歴は14~5年。奥さんたちも中国人で子供もいる。なんといっても中国発西洋人ブロガーでは彼らの右に出るものはないだろう。

彼らは二人とも北京語完璧。中国国内で何百というビデオを制作した。彼らの中国全土をオートバイで巡った中国南部・北部制覇のビデオ(予告編はこちらエミー賞とるべきともいえるほど質の高い旅行記シリーズである。ウィストンによると、過去何回も彼のチャンネルを買い取りたいという依頼があったそうだ。その謝礼として多数の登録者や巨額の謝礼金のオファーがあったという。マットもやはり同じようなオファーをもらったそうだ。「私たちはチベットや新彊における共産党による弾圧を過小評価する代わりにその地域の観光ビデオを撮るために航空機まで用意すると言われました。」

私は二人のビデオを数年間追ってきたが、この記事にもあるように、最初は中国は美しいといった旅行記食レポが主だった二人のビデオが年を追うごとにすこしづつ中国社会への批判と変わっていった。ウィンストンは中国国内のスリ組織の話やぼったくりバーや子供誘拐組織の話などをするようになっていったし、マットも中国内の不動産事情の腐敗さについて語るようになっていった。それに腹を立てた五毛どもがウィンストンやマットを標的にネットで彼らを責めるネガティブキャンペーンを始めたのだ。

ウィストンとマットが中国北部制覇のドキュメンタリーを撮っている最中に、二人は中国公安部の人間に何度となく嫌がらせや脅しを受け生きた心地がしなかったと後で語っている。そんなこともあって二人は2019年初期にカリフォルニアに脱出した。私はマットが命からがら中国から脱出した時のビデオを後で観たが、本当に間一髪という感じだった。

中共政府は五毛を使ってウィンストンや妻をスパイ容疑で当局に通報させたり、挙句の果ては南アフリカにいるウィンストンの家族にまで嫌がらせメールを送るなどの悪質な嫌がらせをした。

フランス人ユーチューバーのジョージスも同じような目にあった。ジョージスは中国に13年も住んでおり中国人妻をめとっていた。以前は「チャイナノンストップ」というチャンネル名で活躍していたが、今は「ジョージスノンストップ」と改名し、中国に関するビデオは全く作らなくなった。それというのも五毛による悪質な嫌がらせによりジョージスは職を失い、中国当局からパスポートを奪われ、中国に関して好意的な内容のビデオを作るように言い渡されたからだ。ジョージスは中共に言われる通りのビデオを作り、パスポートを返されたと同時に中国を脱出した。 ちなみにそのビデオを見てみたら、「中国人は世界で一番運転がうまい!みんな規則を守るしこんな国はない。教養は豊かで皆独創的。単に暗記するだけの西洋人とは大違い。公害もまったくないし空気はきれいですばらしい」という皮肉たっぷりのビデオ。こんなのに騙されるとは中国共産党公安も大馬鹿だね。

中国では五毛どもが外国人ユーチューバーのプライベートなチャットルームなどに潜入して、文脈を無視してスクショを撮り、それを他のSNSで拡散して嫌がらせをする行為が普通に行われているという。

最近の中国共産党SNSの影響力を十分に弁えている。それでSNSに現れる反中共情報に神経質に対応しているのだ。それで五毛などを使ってユーチューブやSNSの話題をコントロールしようと必死なのである。

ユーチューブやツイッターフェイスブックは中国国内では一応違法だが、先にも述べたように中国人がこれらのサイトにアクセスするのは容易だ。それを中国共産党政府は十分に弁えている。だからこそ英語で親中国プロパガンダを発信するプラットフォームは大事なのである。

例えばカナダのバンクーバーなどは中国系移民が非常に多い場所だ。そこ発のユーチューバーが親中内容のビデオを発信することは移民だけでなく中国内市民にも大きな影響を与える。中国共産党に批判的な内容は、たとえ中国内からでなくても攻撃の対象になる。

そう考えるとこの一年間、武漢ウイルスの発祥地は中国の武漢研究所だというビデオやツイートがどんどん検閲されたのも、中国政府の魔の手が届いたせいなのかもしれないと疑いたくなる。