苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

伝統的専業主婦女性達の人気急上昇、一方で独身生活を奨励する女性インフルエンサーが目立つのは何故?

最近TikTokで伝統的な1950年代のアメリカのホームドラマに出て来るような主婦の恰好をした美女が、夫のために美味しい料理を作ったり家の中を綺麗にしていたりすることを自慢するビデオが人気を浴びている。最初は一人二人だったのが、だんだん同じようなことを自慢する人たちが増え、それがある種のブームになっている。

女性の幸せはキャリアを持ち経済的に独立し男に頼らずに一人で生きていくことだと言われてきたにもかかわらず、一定数の女性達はキャリアではなく夫に仕え子育てにいそしむことに幸せを求めているというのも興味深い。

英語ではトラッドワイフ(Tradwife=Traditional wife)運動を始めた代表的存在なのがエスティ―・ウイリアムスという女性。彼女はTikTokビデオの中で一年前に動画を始めた頃は別に取り立てて何かの運動だと思っていなかったが、今や伝統的な妻として母親としての女性であることはある種の運動になりつつあると語っている。彼女にとって妻であり母親であることが自分に与えられた最高の使命だと感じるとし、その動きが戻ってきたことは素晴らしいことだと語る。

しかしこうした運動に発狂しているのがフェミニスト達。伝統的女性像は家父長制度の増長だとか、これは宗教右翼の陰謀だとか、人種差別だとか(なんで?)本日見つけたこの記事なんかはその典型である。何故か著者はマイク・ウォルタースという男性。“A Lot of Them Were Raised in the Cult of Conservative Christianity”: The “Tradwife” Trend and the Dangers It Poses to Submissive Women

[「トラッドワイフ」運動をさらに複雑にしているのは、米国やその他の地域における極右勢力との関連である。イギリスの「トラッドワイフ」たちは、この関連性から距離を置く傾向にあるが、この運動が白人女性の服従を主張する白人至上主義者たちと共鳴していることは否定できない。]

一体何を言ってるんだ?伝統的な専業主婦が圧倒的に多いのは白人社会ではない国々だ。私の年代の女性達のほとんどが専業主婦だが、日本女性はみんな白人至上主義だとでもいいたいのか?バカバカしい!この著者のいるイギリスでもインドやパキスタン系の移民のほとんどの女性が専業主婦だ。キャリアウーマンを目指す傾向はほぼ全面的に白人社会の傾向だ。それを持ち出すならフェミニズムこそ白人士至上主義の賜物だと言える。

ウォルタースは皮肉なことにこれらのトラッドワイフはTikTokで常に自分の幸せな主婦生活をアピールするのに忙しく、実際の主婦としての義務を怠ってしまってはいないかと懸念する。現に有名なインフルエンサーたちはあちこちのメディアでインタビュー受けるなどひっぱりだこで忙しい。結局彼女達のトラッドワイフは単なるコスプレではないのかというのである。

またTikTokで登録者が多い人気者になれば、明らかに収入はあるわけで、それ自体がキャリではないのかという声もある。

現在のトラッドワイフと実際の1950年代の主婦との違いは、当時の女性達はもし夫に甲斐性がなく酒飲みで暴力を振るうような男だった場合でも、離婚して女手一つで子供を育てるという選択肢がなかった(あっても難しかった)のに対し、現代の女性はそんなDV男はさっさと見限って財産を半分貰って離婚し、自分も仕事を探してシングルマザーとして子育てをするという選択肢がある。そんな安全な社会で専業主婦が偉いみたいに言うのは偽善だという意見もある。

だがトラッドワイフたちは別にキャリアウーマンを見下しているわけではないし、酒飲み暴力夫と我慢して一緒に暮らせと説教しているわけでもない。現代のトラッドワイフたちも現代っ子である以上、暴君の夫にまでおとなしく仕えるべきだなどとは思っていないだろう。

忘れてはならないのはトラッドワイフには明らかに夫が居るということだ。そしてこのような伝統的な専業主婦を妻に持つためには男たちにも伝統的な役割を果たす義務があるのだ。つまりトラッドワイフが成り立つためにはトラッドハビー(trad hubby=traditional husband 伝統的夫)の存在が必要なのである。

伝統的夫とはどんな男か、それは外に出て働き妻子が経済的に困窮しないように養い、家事と子育てに忙しい妻に感謝し、家にいる時は子供達の面倒も見、積極的に子供の教育に参加する。言ってみれば1950年代のホームドラマFather Knows Best, Leave it Beaver, The Dick Vandike show, 1970年代ならBrady Bunchなどに出て来る父親像に当てはまる男たちである。

これらの夫・父親たちは外で働いて帰って来てから、妻から家の中で起きた色々な話を真剣に聞き、聞き分けのない子供について妻から「あなたからも言ってやってくださいよ」と言われたらきちんと子供と話をするし、場合によっては罰も加える。そして妻からも子供たちからも「やっぱりお父さんが一番だ」と愛され尊敬されるのだ。

さて一方で、同じくTikTokで最近よく見かけるようになったのが30過ぎても独身の女性たちが、いかに自分達が独身生活を満喫しているかという動画である。私自身はTikTokは中国のスパイ機能があると思っているから使っていないが、いくつかのサイトで上がってきたので観てみた。だいたいがこんな感じだ。

今、朝10時、昨日友達と遅くまで飲んでたからゆっくり寝てた。誰も文句言う人はいないし、煩い子供はいないし、今日は一日ユーチューブで観た料理のレシピを試してみようっと。好きな時に一人で旅行に行けるし、子守の心配も要らないし、あ~1人って本当に幸せ。

といったような内容だ。別に独身生活を満喫しているというならそれはそれでいい。だが、彼女らのビデオの内容は非常に希薄で、本当にそんな生活に満足してるんだろうかと疑いたくなる。

私は家庭の事情で結婚せず独身を通しているひとや、早くに夫を失くし子供も独立して何十年も一人暮らしをしている女性を何人か知っているが、彼女達の生活はこんな空虚なものではない。たとえば一人暮らしの叔母は近所の小中学校でボランティア活動をしており、裁縫がうまいので子供たちの演劇祭で衣装担当などをして大忙しだ。彼女の子供達はもう40年以上も前に独立しているが、何時電話しても今週はスケジュールが一杯だからランチは来週ね、などと断られてしまうくらい独身生活を満喫している。もう一人は仕事をしているが、週末はあっちこっちの劇場で観劇ざんまい。押しの俳優が出る舞台は飛行機に乗って宿を取ってまで観に行くという熱心さ。だからたまに彼女と電話をするとお芝居の話で花が咲いてしまう。

彼女達は別に独身でいることを特にアピールするようなことは言わない。幸せな人は自分が幸せなアピールをする必要はないからだろう。

朝好きな時間に起きてなにもやることもなく一日中ぶらぶらできるのが幸せだというなら、それはそれで結構だが、そんな生産性のない生活を一生続けることが本当にその人にとって幸せなのだろうか。それでも若い頃はいい。20代後半までなら週末羽目を外してパーティーするのもいいだろう。だが30過ぎていつまでもそんなことをやっていたら、あっという間に美しくも若くもなく何もできない中年女が残るだけだ。若さをそんな風に無駄にしてしまっていいのか?

無論、人それぞれなので私がどんな生き方が正しいなどという気はない。ただフェミニスト達が不幸せな結婚生活に嵌ってしまっていると見下げていた専業主婦たちが多かった1950年代に比べて、現代女性の幸せ度は極端に落ちている。(Is There a Happiness Gender Gap? (berkeley.edu)もしフェミニスト達が言うようにキャリアを目指した独身女性達の方が幸せだと言うなら、なぜこんなにも現在の女性達は不幸せなのだろうか?

考えてみる価値があるのでは?