苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

何百というイギリスの医師たちがイギリス最大の医師労働組合(BMA)を脱退している理由

昨日イギリスではイギリス最大の医師労働組合から何百という医師が次々に脱退しているという話を聞いた。

英国医師会(BMA)がキャス・レビューに反対したため、数十年の経験を持つ医師たちがBMAを辞職した。

何百人もの会員が、組合の指導者たちがレビューの結果を否定し、思春期ブロッカーの解禁を求めた後、組合の姿勢に 「落胆 」の声を上げた。

BMAの行動の何が原因となったのか、先ずその話をしておこう。

英国医師会がキャス・レビューの見直しを要求

こちら英国医師会、二次性徴抑制剤(ホルモン・ブロッカー)の禁止の解除を求めるという記事(英語の元記事はこちらBritish Medical Association calls for puberty blocker ban to be lifted : PinkNews (thepinknews.com))ノートで邦訳した記事を見つけたので一部引用する。強調はカカシ。

英国医師会(BMA)は、若者に対する二次性徴抑制剤(思春期阻害薬・思春期抑制剤など名称はいくつかある)の禁止をめぐる懸念もあって、キャス・レビューの評価を発表しました。
完全に公表されたキャス報告書は、18歳未満の二次性徴抑制剤の処方に「細心の注意」を払うよう求めるなど、いくつかの勧告が批判されました。専門的な活動家や医療専門家らは、確立された研究を「質が低い」とみなす決定にも疑問を呈しました。
19万人以上の医師を代表する労働組合は、2024年7月31日のプレスリリースで、キャス・レビューの調査結果の評価を行う間、キャス・レビューの勧告の実施を一時停止するよう求めました。 「BMAは、性別違和のある子どもや若者への思春期抑制剤の処方を禁止する提案を批判しており、代わりに子どものケアのための確固たる根拠となるさらなる研究を求めている」と声明は述べています。
BMA評議会議長のフィリップ・バンフィールド教授は、報告書が精査されることは「極めて重要」だと述べ、「これは、複雑なニーズを持つ子供や若者のためのヘルスケアの中でも高度に専門化された分野であり、医師として私たちは、彼らが最も適切なケアと必要なサポートを確実に受けられるようにしたいと考えています」と付け加えました。
キャスレビューとは何か

キャスレビューとは、イギリスにおいてヒラリー・キャス博士が提出した若年層トランスジェンダー医療に関する報告書のことである。

キャス博士はイギリス全国保健省(NHS)で青少年の性自認治療調査の独立調査会の会長である。この報告書はNHSイングランドがより「高い水準の治療を受けられるようにする方法について提言」するために委託したものである。

この報告書はトランスジェンダー医療の現状や今後どのように改善していくべきかといった推薦などが含まれている。

キャス博士はトランス治療は通常の臨床の基準を完全に無視し、科学的根拠もなく安全性も危険性に関する調査も不十分であるにもかかわらず、トランスジェンダー治療は行われており、まともな臨床医は怖くて関わり合いになりたがらないと結論づけている。この調査結果は広く受け入れられている。

キャス・レビューのスポークスマンによれば、当報告書は 「ヨーク大学が行ったシステマティック・レビューは、レビューの結果を支えるものであり、これまでで最大かつ最も包括的なものである。「彼らは18カ国から237の論文を調査し、合計113,269人の子供と青年の情報を提供した。「ヨーク大学のシステマティック・レビュー研究論文はすべて、学術的厳密さと誠実さの要である査読の対象となり、その方法、発見、結果の解釈が、質、妥当性、公平性の最高基準を満たしていることが確認された」

この報告書の中で未成年へのホルモン投与には最新の注意が必要だされており、この報告書がもととなり、思春期ブロッカーの禁止及びその他未成年へのホルモン治療は厳しく規制されることとなった。(イギリス、若年層のトランスジェンダー医療に関する調査書「ザ・キャス・レビュー」を公開|苺畑より (note.com)

BMAは労働組合であり医師学会ではない

British Medical Association (BMA)は名前だけ聞くと19万人もの医師が参加している医学会のような印象を持つが、この組織は医者の労働組合であり医師学会ではない。通常BMAの仕事は医師の給料や待遇の交渉であり、特定の病気に関する治療の医学方針に口を出せるような権限は持ち合わせていないのである。しかも今回の発表は19万人いる会員の意見を反映させたものではなく、たったの69人の組合員で構成される同組合の評議会で「秘密主義的で不透明」な形で可決されたものだ。

BMAの医師メンバーたちにとっては寝耳に水の発表だった。しかも医師たちは可決され正式な方針となったキャス・レビューを拒否する動議に投票するよう求められたのだ。

それでBMA会員900人を含む1,400人以上の医師が、BMAにレビュー結果を受け入れるよう求める公開書簡に署名した。

BMAメンバーを含む2300人の医師たちが組合の方針に抗議、公開書簡に署名

この書簡は、組合の指導者たちが「エビデンスに基づく医療の原則に反し、倫理的実践に反している」と主張している。この書簡には、70人近い教授や23人の元医学王立大学学長または現医学王立大学学長を含む著名人が署名している。

タイムズ紙が最初に報じたこの書簡に対するネット上のコメントによると、見直しに対する組合の姿勢に反発し、多くの医師が組合員証を破り捨てたことが明らかになった。

あるコメントはこう述べている:

「私の全面的な支持と賛同を得た、素晴らしく研究され書かれたキャス・レポートに対するBMAの非道な姿勢に基づき、私は医師資格を取得して以来50年間会員であったBMAを脱退することにした。

「BMAはますます私の意見を代弁しないばかりか、医療専門家であることの前提や倫理観を全く尊重していない。私がBMAを脱退したのは、指導部のこのような振る舞いのせいでもある。

別の投稿にはこうある:

「BMAは組合であり、組合員を代表するのが役割であって、特に専門領域において臨床の意見を押し通すのが役割ではない。私は42年間在籍したBMAを辞めようと思っています」。

またキャス報告書のスポークスマンもこう語る:

「最終報告書で述べられているように、レビューの結果とその勧告についてオープンで建設的な議論が必要である一方で、誰もが、自分の人生を生きようとする子どもや若者、そして彼らを支えるために最善を尽くしている家族・介護者、臨床医のことを忘れてはならない。「すべての人は、思いやりと敬意をもって扱われるべきである。

キャス報告書の推薦が覆されることは先ずかんがえられない

トランスジェンダー活動家たちはBMAのキャス報告書の見直しを要求する手紙をもってして、キャス報告書の内容が信用ならないものであるとか、きちんとした査読がされておらず専門家の間でも色々な異論が出ていると主張する。

だがここで示したようにBMAは科学的な学会ではなく単なる労働組合であり、彼らに医療法の良し悪しについて口出しする権限も資格もないのだ。

このような人たちが専門家の医師たちが広域にわたって受け入れたキャスレビューの推薦を覆すなどということは先ず考えられない。だから彼らが未成年の性転換手術をイギリスが再び認めるようになるという期待をしているなら、諦めたほうがいいだろう。