先日の大統領選討論会をスティーブン・クラウダ―のチャンネルで観た。勝敗は引き分けだろう。トランプはまあまあの出来だったし、ハリスは思ったより酷くなかった。この討論会によってトランプ支持者もハリス支持者も気が変わるということはないだろう。ただ司会の二人が完全にハリス寄りで、トランプの発言についてはいちいちつっこみを入れたり挑戦したりしていたのに対し、ハリスがどんな嘘出鱈目を言っても聞き流していたというのはトランプ支持者から観ていて非常に腹立たしかった。
ABC局主催のこの討論会、司会はデイビッド・ミュアーとリンゼイ・デイビス。トランプへの質問は厳しいものばかりだったのに対し、ハリスへは半分答えを与えてるような優しい質問ばかり。そしてトランプの「間違い」はその場ですぐ正したのに対し、ハリスの嘘はすべて見逃した。
ではトランプとハリスの発言をいくつか吟味してみよう。
ABCによるトランプ発言ファクトチェック
1. 妊娠人工中絶について
トランプは全国的に中絶を合法としたロー対ウエード判決を覆すのに貢献した大統領であり、自分は最もプロライフ(中絶反対派)な大統領であると自慢していた。しかし最近女性の「再生の権利(reproductive rights)を尊重する」と発言して一部の保守派から批判されている。この「再生の権利」とは左翼リベラルが好んで使う言葉だが、その言葉の意味とは裏腹に実は「人工中絶をする権利」という意味で使われる。こういう左翼の言葉使いをトランプがしたことで保守派からトランプを批判する声があがったのだ。しかもトランプはフロリダ州の妊娠6週間以降の中絶を禁止する法律を「厳しすぎる」とまで言っている。だが同時にこの法律を覆すことには反対票を投じると発言しており、矛盾していないかと質問された。
なぜそんな投票をするかというと......彼ら(法律反対派)は9ヶ月目に中絶をするんだ。ウェストバージニア州(バージニア州)の知事を見ればわかるが、前の知事......今の知事ではなく、現知事は素晴らしい仕事をしているが、その前の知事は、『赤ん坊が生まれたら、その赤ん坊をどうするかは我々が決める』と言った。だからそうしたんだ」とトランプは言った。
トランプが言っているウエストバージニアの前知事は医者であり、妊娠満期で子供が生まれて来た場合でも治療しないことによって子供を見殺しにするところまで許されるべきだと公言していた。つまりトランプは6週間以降の中絶禁止法律を反対する人たちはそのくらい過激な思想を持っているから賛成できないと言っているわけだ。
これに対して司会者のデイビスが異論を唱えた。
子どもが生まれてから殺すことを合法としている州はありません。
デイビスは間違っている。カマラ・ハリスの副大統領候補のティム・ウォルツは現ミネソタ知事だが、つい一年半くらい前にウォルツはミネソタ州で後期中絶の際に赤ん坊が生きて生まれて来た場合に子供は人間として扱い命を救うべきという法律を覆した。つまりミネソタ州では生まれた子供を放置して殺しても良いということになっているのだ。
トランプは中絶擁護派の意見をそのまま取り入れたら最終的にそうなるから厳しい中絶法を覆すのには反対票を投じると言ったのである。
これに関してハリスは全国的に中絶を合法にするつもりだと語り、トランプが大統領になったら彼は全国的に中絶を禁止するつもりだと繰り返した。
デイビスはトランプに対して、もし中絶を全国的に禁止する法律が上がってきたら署名するかと質問。トランプはこれは州が決めることであって連邦政府が決めることではないので署名はしないと断言したにもかかわらず、デイビスは2度3度と同じ質問を繰り返した。その度にトランプは、これは州が決めることだ、それこそがすべての人が望んだことだと繰り返した。
トランプの発言には2度3度と挑戦したデイビスはハリスのこのあからさまな嘘には挑戦しなかったばかりか、ハリスのいう合法な中絶とは具体的にどのようなものであるのかについての質問もしなかった。
それでトランプはハリスに「人工中絶は何か月までならいいと考えているのか」と問いただしたがハリスは答えなかった。そしてデイビスもハリスを問い詰めなかった。
2. スプリングフィールドではハイチ人がペットを食べている!
トランプは違法移民に関する話のなかで、オハイオ州のスプリングフィールドではハイチ移民が人々のペットを食べていると発言した。しかしデイビッド・ミュアーは市役所の役員はそのような報告は受けていないと言っていると反論。トランプはテレビでそう言っている人を観たと答えたが。ミュアーは「私は(この情報を)テレビから得ているのではなく市の役員から得ています。」と答えた。トランプは重ねてテレビで市民がそう言っているのを観たと繰り返したが、ミュアーは市の役員は否定していると繰り返した。
私も現場の人をインタビューしている記者に「野良猫を集めてるハイチ人を見た」とか「切断された豚の頭が捨てられているのを見た」とか「アヒルを何羽か車に詰め込んでるハイチ人を見た」と証言している動画を観た。
私は最初トランプはこのペットの話はすべきではなかったのではないかと思った。それよりもハイチ人による無免許運転、窃盗や強盗、私有地侵害、違法な動物捕獲などを強調すべきだったのではないかと。しかし移民による犯罪を強調するにあたり、いかにハイチ人が野蛮であるかを象徴する意味でペットを食べているというのは印象に残る。これに関して討論の後でトランプの副大統領候補のJDバンスが「スプリングフィールドの人達がどれだけ大変な目にあっているか誰も興味を示さなかったのに、トランプがペットのミームを投稿したらみんなが注目しはじめた」という意味のことを言っていたのを聞いて、なるほどと思った。
ちなみにこのビデオによるとハイチ人ではないがカリブ海出身の男性が、近隣諸国ではハイチ人が猫を食べること、猫をブードゥー教の生贄にすることはよく知られていることだと語っている。だから市の役員が確認していなくても実際に起きていることだろうとの推測はできる。
3. 犯罪は天井を突き破る勢いで増えている!
トランプ大統領は犯罪が天井を突き破るほど激増しているというと、ミュアーは即座に「FBIによると我が国での犯罪は全体的に減っているとのことです。」と反論したが、これについてトランプは、、
「FBIは詐称していた。最悪の都市は含まれていない。犯罪件数の多い都市は含まれていない。これは詐欺だ。雇用を創出したという81万8000件という数字が詐欺だと判明したのと同じだ」
と答えた。このトランプの返答は非常に良かった。実際犯罪は減っているのではなく、カリフォルニアのように、これまで重犯罪とされていたものが軽犯罪と定義が変えられたり、単純に特定の犯罪は犯罪として数えないようになったというだけのことだ。
それにだ、これについてはカマラ・ハリスの警察の予算を削るべきという姿勢について問いただす絶好の機会であるのに司会者たちはそれをしなかった。カマラ・ハリスはもと検察官だったことから犯罪は厳しいと口では言っているが、BLMの騒動の時に逮捕された暴動者たちの保釈金を払っていた組織に寄付していたことも知られている。それをトランプは指摘したが、司会者たちはそれを無視してハリスを問い詰めなかった。
4.トランプが2020年の選挙で負けたことを認めたのは皮肉だった
少し前のラリーで、トランプは「髭の差で負けた」(日本語だと紙一重と言う意味)と発言したことに関して2020年の選挙では負けたことを認めるのかと質問された。
「私は皮肉を込めてそう言ったのだ。そのことを知っているな。『ああ、髭の差で負けた』というのは皮肉を込めて言ったのだ。ほら、証拠はたくさんある。それを見ればいいだけだ。彼らはそれを承認のために議会に送り返すべきだった。私は約7500万票を獲得した。現職の大統領がこれまでに得た最多の票だ。2016年に得た63点を取れば、負けることはないと言われていた」
ミュアーは即座に「ビデオを見ましたが皮肉には見えませんでした」といい、「裁判官たちは広域にわたる選挙違反はなかったと言っています。」といいハリスに向かって、トランプは選挙違反をする人間は起訴すると言っているのは有権者への威圧ではないかと聞いた。どういう質問だこれは!
5. 1月6日は誰の責任?
ミュアーは、トランプは2020年1月6日の暴動が起きてから二時間も経ってからツイッターで人々に家に帰れと言ったことに責任を感じているかと質問。トランプは「私は平和的に愛国的に行進しろと言ったのだ」と答えた。これは事実。トランプは議事堂を襲撃しろなどとは一言も言ってない。「これから議事堂へ向かう人もいるだろうが、平和的に愛国的に行進してほしい」と言ったビデオを私は何度もみた。にもかかわらず未だにこの嘘を繰り返すABCの汚さ。
また当時の警備の責任は会議長でなるナンシー・ペロシとDCの市長にあったということもトランプは指摘。かなりの人数が集まるはずなので警備には州兵を出動させるべきだと提案したがペロシに拒否されたことを語るとミュアーは、「この質問は大統領としてのあなたへのものです。ペロシ前議長へのものではありません」と跳ね返した。いや、トランプに責任のないことを押し付けようとしたのは自分だろうが。
ABCが指摘しなかったカマラ・ハリスの嘘八百
嘘1:銃砲を市民から取り上げるなんて言ってない
カマラ・ハリスはトランプからハリスは市民から銃を取り上げるつもりだと指摘されると「嘘つくな!」と怒鳴り返した。しかしハリスは過去に何度も 強制的に銃の買戻しすべきだと言っている。どっちが嘘をついてるんだ。
嘘2:トランプはネオナチのことを「立派な人々」だと言ったと主張
これは何度も嘘だと暴かれているにもかかわらず討論会で使うとは汚い奴だ。しかしハリスはABCが間違いを指摘しないと解っているから平気で嘘がつけるのである。これは昔からある銅像を撤去すべきかという議論においては双方に言い分があるという意味で、「どちらにも立派な人々がいる」と言ったのである。たまたまその集会にネオナチが現れたというだけであり、これはトランプ大統領の演説の切り取りによる悪意のあるデマである。これがデマだったことは左翼ファクトチェックのSnopesですら認めている。
嘘3:トランプは全国的に中絶を例外なく完全禁止にするつもりだ
前述のようにトランプは中絶については各州で州民の意見を尊重して決めるべきだと何度も言っている。トランプの中絶に関する姿勢は宗教右翼の間ではリベラルすぎると批判されているくらいだ。
妊娠満期の中絶が失敗して赤ん坊が生きて生まれて来た場合の対処についても、デイビスはトランプが嘘を言っていると言い切ったが、実はティム・ウォルツ知事のもとで8人の赤ん坊が生まれた後に死んでいる。
嘘4:警察の予算を削れなんて言ってない
トランプがカマラ・ハリスは警察の予算を削減したいのだと言ったとき、カマラはバカにしたように笑った。しかしハリスは以前のインタビューで、街頭に警官が増えるのは「間違っている」と述べている。彼女はまた、学校に警察官を配備するのもやめるべきだと言っている。それに関してABCの司会者は何も言わなかった。
嘘5:トランプは自分が負けたらアメリカは血の海になると言って暴力を仄めかした
ハリスは、トランプが当選しなければ血の海になると言ったと主張し、彼の支持者が人々を非難し始めるだろうとほのめかした。これは完全に誤りである。このコメントは、トランプ氏が当選しなければ、アメリカの自動車産業にとって「大騒ぎ」になると述べた集会で行われたものだ。ABCの司会者は何も言わなかった。
嘘6:トランプはプロジェクト2025を推進している
これは民主党のトーキングポイントである。極右翼のグループが作成した今後の計画だが、このグループとトランプは関係ない。トランプはプロジェクト2025について何も知らないし知りたくもないと何度も言っている。
少なくともこれに関してはトランプが断固否定できたので、かえってハリスがこれを持ち出したのは良いことだったかもしれない。無論ABC司会者たちは何も言わなかったが。
参考資料:
What Kamala Harris said about faith and abortion (msn.com)