苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

国際法専門家でも国際法違反行為を正確に判断できない理由

先日倉山満氏の国際法に関する話をご紹介したが、今回はX上でミリオタ自称のJSKさんが国際法は専門ではない倉山教授の話よりも専門家の意見を聞くべきだといって紹介したこちらのビデオ東澤靖教授のお話をご紹介しよう。このビデオは1時間30分もあるので読者諸氏に全部観ろとは言わない。それより先日紹介した倉山氏の話と関係のある部分の説明と、今のイスラエル軍の行動が国際法に違反するという東澤教授に反論をしたいと思う。以下敬称は省く。

東澤は戦場においてどのような行為が国際法に違反するかを説いている。34:20で民間人・民用物を攻撃対象としてはならない(区別原則)の話をしており軍事標的は軍事目的の施設に限られるとしている。しかしこれが禁止しているのは意図的に民間人や民用物を標的にする行為であって、間違った場合や付随的損害(コラテラルダメージ)は違反行為とはみなされない。

37:06の区別原則:予防措置の部分では攻撃する側にも防御する側にも攻撃から民間人を守る措置が義務付けられているとしている。攻撃する側の義務として自制、中止、警告、選択があり、防御側には移動、回避、予防(人間の盾禁止)などがある。

この部分は倉山が言っていた、標的となる場所が軍事標的であるかどうかの証明は、攻める側にも防御する側にもあると言っていたことと一致している。アル・シファ病院について語るなら、イスラエルは昔からこの病院は軍事標的であると主張しており、多々の証拠を提示していた。またこの病院を攻めるにあたり一か月以上も避難勧告をおこなっていた。

それと共にハマスにはその攻撃から民間人を守るために医療関係者や患者を避難させる(移動)義務もあり、病院が軍事目的に使われていないことを証明して攻撃の回避と予防をする責任があった。

さてではハマスイスラエルによる国際法違反行為について考えてみよう。

43:48ハマス側の行為をどう考えるかで、東澤は次のような違反行為を羅列している。

  • 10月7日の民間人の殺害
  • 軍事目標以外へのミサイル攻撃
  • 人質をとっていること
  • 軍事施設を病院など民間施設の近くにもうけていること
  • 人間の盾?

何故人間の盾に?が付いているのか分からないが、次に45:13イスラエルの行為についても羅列がある。

  1. 多くの民間施設への砲撃と生活基盤の破壊
  2. 包囲戦
  3. 民間人への移動指示
  4. 病院施設への攻撃

ちょっとこれはおかしいのではないか?1番と4番だが、東澤は民間の施設でも軍事施設として使われていた場合は例外として攻撃の対象となると前に述べている。ではここで東澤はイスラエルが攻撃した施設が軍事施設ではないと証明出来ない限りこれらの行為が違反行為であるとは断定できないはずである。

2番の意味は私には解らないのだが、戦争で包囲戦は一つの作戦であり、戦闘作戦が国際法に触れるというのであればこの法律そのものに問題があると思う。だがそれが法律だというならそれはちょっと横に置いておこう。

3番の民間人を強制的に移動させる行為は違法だというが、それは味方側の占領の目的としてそこに住んでいる人たちを無理やり立ち退かせる行為であって、攻撃の巻き添えにならないように無関係な民間人を避難させる行為とは同じではないはずである。だいたい民間員の避難はハマス側の責任であり、その責任を自らの危険を冒してまで負ったイスラエル側に対してこれが国際法に違反するなどというのは言い掛かりとしか思えない。

東澤はどのような行為が国際法に違反するかの説明はしているが、イスラエルの行為がそれに当てはまるという適切な説明を怠っている。そして私が全く同意できないのが46:39で始まるイスラエルガザ地区への攻撃継続は、自衛権によって正当化されないと言う部分だ。東澤はまず「自衛権の行使には限界がある。」とし次の項目が必要条件となるとしている。

  1. 武力攻撃の存在
  2. 急迫性
  3. 必要性
  4. 均衡性

そして今の状況はそれぞれどの条件のどれも満たしていないとしてこう説明する。

  1. パレスチナ占領による急迫性の欠如。
  2. ハマス武装勢力を領域内から排除し急迫性は終了している。
  3. 将来の攻撃やテロの可能性は必要性としては不十分。専制的自衛を国際検証は認めていない。
  4. 「反撃」の行っている攻撃は明らかに過剰人質がとられていることは武力攻撃を正当化しない。

東澤はさらに歴史的な背景や大義名分は国際法では考慮されないとも語っている。先ず1と2だが、これはイスラエルハマスの侵略を追い払ったというのであれば意味があるが、ハマスイスラエル領に奇襲攻撃をしかけ1200~1300人の民間人を虐殺したうえでガザ側に自発的に引き返したのであって、イスラエル軍の反撃にあって逃げ帰ったわけではない。これは攻めて来た軍隊がこちら側の反撃にあって撤退したのとはわけが違う。なにしろガザはイスラエルと国境を接しておりほんの数キロの余裕もないのである。彼等は単にベース基地に戻って再度の攻撃を狙っているのだ。そしてハマスのリーダーは今後も第2第3の攻撃をすると宣言している。この状況で急迫性がないとはどういう意味だ?

3の必要性にしてもそうだ。イスラエルのやっていることは先制攻撃ではない。宣戦布告をした敵に対しての攻撃である。すでにこちらに攻め入り1300人もの民間人を虐殺(東澤も認める国際法違反行為)をし、今後も責め続けると宣戦布告をした敵への攻撃に必要性がない?いったいどうすればそういう結論が生まれるのだ?

そして均衡性。イスラエルの行為が「明らかに過剰」とは何を基準にして言っているのだ?この均衡性に関しては敵と味方の犠牲者の数では決められないという話は以前にもお話した通りである。

東澤のような弁護士が理解できないのは、これは法廷ではないということだ。相手がどれほど危険であるかを判断するのはその場に居ない法律家ではなく現場で戦争をやっている軍隊がするのだ。だから今現在起きている戦争が国際法に触れるかどうかはハマスのやったようなあからさまな違法行為以外は簡単に判断することは出来ないのである。東澤の専門は法律であり戦争ではない。この戦争に急迫性があるか必要性があるかを判断できるのは同じ敵と長年戦ってきて相手の出方を十分承知している当事者だけである。

つまりどれだけの専門家であろうとも、現場の戦況をきちんと把握できない人には誰がどのように国際法に違反しているかということは正しく判断できないのである。

東澤靖:所属明治学院大学 法学部グローバル法学科 教授学位、法学士(1983年3月 東京大学)LL.M.(1994年5月 コロンビア大学ロースクール) 研究分野:人文・社会・国際法額・交際人権法・公法学憲法