国際ボクシング協会(IBA)が女子ではないとして出場資格を失格としたアルジェリアと台湾の選手を巡って論争は続いているが、昨日国際オリンピック協会(IOC)のトーマス・バッハ会長の記者会見を観た後で、今行われているIBAの会長の記者会見を観ているが、この二人の会見内容が非常に対照的で面白い。
フランス・パリの主要メディアセンターで行われた記者会見で、トーマス・バッハIOC会長は「女性として生まれ、女性として育ち、女性としてのパスポートを持ち、女性として長年競技をしてきた2人のボクサーがいる」と宣言した。(IOC president Thomas Bach defends Imane Khelif & Lin Yu-Ting from 'politically motivated cultural war', deems ‘hate speech' towards them unacceptable (msn.com))
我々は、政治的な動機、時には政治的な動機による文化戦争には参加しない。そして、この文脈でソーシャルメディア上で起こっていること、ヘイトスピーチ、攻撃性、虐待、そしてこのような意図によって煽られていることは、まったく容認できないことだと言わせてほしい、
「私たちは女子ボクシングについて話しています。女性として生まれ、女性として育ってきた2人のボクサーがいる。女性としてパスポートを持っている。そして、女性として何年も戦ってきた。これこそ女性の明確な定義である。彼女たちが女性であることに疑いはなかった。
「私たちが今見ているのは、誰が女性であるかという定義を自分のものにしたがる人たちがいるということです。そこで私は、誰が女性であるかの科学的根拠に基づいた新しい定義を考え出すよう、彼らに呼びかけることしかできない。そして、女性として生まれ、育ち、競争し、パスポートを持っている人が、どうして女性とみなされないのか。もし彼らが何かを考え出すのであれば、私たちはそれに耳を傾ける用意がある。調べる準備はできています」と付け加えた
バッハ会長は何故IBAの検査結果を尊重しないのかという質問に対してはIBAの検査は試合中にロシア選手との対決前に突然行われた随意的なものだったと説明した。
IOCがIBAを信用しないのは、IBAはロシアの暴力団に牛耳られている腐敗した組織であり、ロシアがパリオリンピックから締め出されたことを根に持っているIBAがパリオリンピックを混乱させようとしているのではないかと関係者は語っている。
これまでIOCはIBAの検査は詳細が明らかにされていないいい加減なもので信用ならないと主張してきたが、この記者会見でIOCが独自にどのような検査をしてこの二人を女子だと認定したのかというはっきりした説明はなかった。
では本日行われたIBAのUmar Kremlev会長の記者会見を見て見よう(IBA shed new light on Imane Khelif's failed gender eligibility tests and claim IOC is 'scared of the truth' (sportbible.com)まとめるとこんな感じだ。
- 両選手は、2022年女子ボクシング世界選手権の開催中にIBAがコーチや競技者から苦情を受け、イスタンブールの独立検査機関で染色体検査を受けた。
- 両選手は、2023年の女子ボクシング世界選手権中に、インドで再度検査を受け、事前の結果を明確にし、確認した。その結果、両選手ともXY染色体であることが判明した。
- 両選手には検査結果が書面で通知された。
- 両選手には、この結果をスポーツ仲裁裁判所に訴える機会が与えられた。リン・ユーティンは決定を抗議しなかった。イマーヌ・ケリフは決定を不服として控訴したがその後控訴を取り下げた。
Kremlev会長は二人のDNA検査がどこのラボで行われたか独立検査機関の登録番号まで発表できるとはっきりと語っている。検査の全容は個人情報なので公開はできないが、その結果を発表することはできるとしている。
この二つの記者会見が対照的なのはIBAの方は何時何処でどのような検査を行い、どのような結果が出て、それに対して選手たちがどう反応したかというところまで詳細にわたり説明しているのに比べ、IOCの会長は二人が生まれた時から女子として生きて来たとかパスポートが女子だとか、IBAの検査は信用できないとか、非常に不透明な言い訳にならない言い訳をしている。
なぜIOCは独自の検査結果を発表しないのか?
はっきり言ってIBAの検査などどうでもいい。彼らが腐敗した組織で信用できないというなら、IOCが独自の検査結果を公開したらいいだけの話だ。個人の医療記録を公開するのはプライバシーに関するというのは解るが、IOCが女子だと認定するための検査方法そのものを公開することは問題ないはずだ。例えばホルモン値、例えばDNA検査、例えばMRI,などなど男女を判別する方法はいくらもあるはず。
この二人に関してどの検査が行われたのかということまで発表をする必要はないが、IOCは性別判別にこれこれこのような検査を行うことが規定にあり、彼女たちはそのテストによって女子と認定されたと言えば済むことなのだ。それを今更生まれも育ちも女性だとかパスポートがどうとか何を惚けたことを言ってるんだ?
今の世の中、セルフIDでパスポートの性別など簡単に変えられる時代。ドイツやカナダや一部のアメリカの州など出生届ですら変更できる国もある。だからそんな書類は何の意味もない。
アルジェリア側の言い分
必死にカリーフ選手はホルモン値検査を受けていると主張している。こちらBBCの記事から。
アルジェリア・オリンピック委員会のヤシネ・アラブ氏は、ケリフ選手の適性をめぐる騒ぎは「ばかげている」と一蹴した。
これについてアラブ氏は3日の試合前にBBCのローアン記者に対して、「(ケリフ選手が)選手村に到着した時点で、検査を受けている」と話した。
カリーフ(日本語カタカナ表記はケリフ)選手のうけた検査は性別検査ではなくドーピング検査だ。ドーピングの場合は最近は一時的にホルモン値を下げる方法があるのでこれによってカリーフ選手が男か女かを判断することはできない。IBAがカリーフと林選手を失格にしたのはテスタストロン値のみに頼ったものではないことはIBAも以前から発表している。
女性であることの証明
はっきり言って私がカリーフやリンの立場なら自分から性別認識テストのやり直しを要求する。そしてIOCとは無関係なDNA検査機関に依頼して実際自分が男か女かをはっきりさせてもらうだろう。
ここで例の渡辺氏がどうやって自分が女性であることを証明すればよいのかと書いているのを見て笑ってしまった。彼は一度女性ではないという検査結果が出回ったらあとでどれだけの検査をしてみてもそれを覆すことはできないと言い張る。いや、そんなことはないだろう。現にIBAは費用を負担して検査をやり直すとまで提案したのだ。私ならこの際白黒はっきりさせてもらおうじゃないかととことん抗議しただろう。
IOCとは直接関係のない独立機関や、両選手の競技参加を抗議しているイタリアやハンガリーの機関なども招いて複数の研究所で検査を行えばいいのだ。分が女であることを証明するのにプライバシーも何もない。
ところで今の時代に自分がDSDであることを知らずに育つというのも信じがたい。女子は思春期が訪れると生理が始まる。発育のレベルは個人差があるので17歳くらいまで初潮のない子もいる。またスポーツ選手のように激しい肉体運動をしている人は生理が止まってしまうこともある。だが年ごろの娘が何時まで経っても生理がなかったら婦人科に診てもらうのが普通だ。そうすればその時DSDかどうかなどすぐにわかったはずである。