10月1日
今日はお爺ちゃんの歯のクリーニングの日だったのだが、歯医者さんの椅子にちゃんと座ってくれなかった。座ってと言っても真ん中に座って奥までしっかり腰掛けない。いくらお尻こっちに動かして、と言ってもダメ。結局衛生士さんも諦めて「今日は無理みたいですね」と言った。私は平謝りしたのだが「いいんですよ。うちの父も認知症なんでわかります」と言ってくれた。
衛生士のローザとはもう何年も前からうちのお爺ちゃんと彼女のお父さんの話を交換してきているので、彼女はよくわかってくれている。お爺ちゃんの介護で泣くことは少ないけど今日はさすがに泣いてしまった。歯医者の先生も出て来て慰めてくれた。この歯医者さんとは30年来の付き合いだ。
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火曜日は映画鑑賞の日。午後から叔母ちゃんと一緒に映画を見に行く予定になっていたのでお爺ちゃんはウキウキしていた。叔母ちゃんの家はうちから高速道路で30分。ところが高速に乗った途端に渋滞。先の方でかなり深刻な事故があった模様。高速を通らないで叔母ちゃんちに行くとなると時間が全く間に合わない。仕方なく叔母ちゃんに電話して今日はキャンセル。「どうした、行かないのか?」残念だけど今日は無理。
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がっかりして帰ってきたけど、お爺ちゃんの好きな「キスミーケイト」のDVDをかける。するとお爺ちゃんはテレビの前で踊りながら歌いだした。よかった。
10月2日
お爺ちゃん、もう寝な。9時半だし。「ふむ」とソファに横になるお爺ちゃん。今夜もそこで寝るの?「ふむ」お爺ちゃんが寝るだけだった寝室は、もう一台のテレビを取り付けてデンにしちゃうか。二時間後、そ~っと部屋のドアの隙間をのぞき込むお爺ちゃん。何?トイレ?「ちがう」ちがってもいいから一応行っとこう。「ふむ」すっきりしたならもう寝な。ちゃんとベッドで。「ふむ」とベッドに誘導。今度はおとなしく寝たけど、明日の朝はどこに居るかな?
お爺ちゃん「カカシ、何をしとる?」あかりちゃんのポッドキャスト聴いてるんだよ。「わしも見る」観ても解んないよ日本語なのに。ま、もっとも英語だってわからないから同じか。「歌は何時うたうんじゃ?」これは政治チャンネル。歌番組じゃないの!
10月3日
お爺ちゃん、朝ごはん食べな。アボカド好きでしょ。「う~!」唸ってないで食べなさいよ。無理に食べさすこともないと思うんだけど、なんか気になるんだよな。
10月4日
今朝はズンバ教室のある日だったんだけど、お爺ちゃんが何時になく寝坊をしているので、今のうちにと思って床拭き掃除をやっていたらすっかり時間を過ぎてしまったよ。でもかなり汗だくなんで、これもいい運動かな。「うを~!」あ、お爺ちゃんが起きたみたい。
スーパーのセルフレジで間違えたので店員さんを呼んだら、急いできた店員さんとぶつかってお爺ちゃんがよろけて頭を打ち大騒ぎ。お爺ちゃんがギャーギャー騒ぐので店長さんが出て来たので、キュウリの値段が知りたいんですけど、と言ったら呆れられた。
お爺ちゃん「痛い!痛い!」他の店員さんも来て慌ててる。ちょっとおでこをぶつけただけ、どうってことない。最近のお爺ちゃんは感情コントロールができないのでちょっとのことで騒ぎ立てる。他人は知らないからあわててしまう。私が全く気にしてないので冷たいおばさんだと思われただろうな。
最近無料映画が結構上がってくるのでお爺ちゃんのためにつけっぱなしにしていたら、よくよく見ると外国語映画の英語吹き替えだった。今日は珍しくアメリカの映画だったのに何故かスペイン語吹替!どうやってもオリジナルの英語に戻らない。脱力。
10月5日
お爺ちゃん、朝ごはん食べな。「嫌じゃ」あっそう。じゃあ今日はお昼に叔母ちゃんと一緒に中華食べに行く約束だけどお爺ちゃんは留守番でいいね。「なぜ?」食欲ないんでしょ。だったらお出かけしてもしょうがないじゃん。「中華食べたい!」じゃ朝飯くえ!「食う」わかればよろしい!
10月6日
散歩中「まぶしい!」と手をかざすお爺ちゃん。あれ?お爺ちゃん帽子どしたの?「知らん」どこに置いてきた?いや、何処にも座ってない。歩きながら脱いじゃったの?「知らん」もう!後戻りして探さなきゃ。「足痛い」しょうがないなあ。
ちょっと探したが見つからないので諦めて帰宅。すると下駄箱の上にお爺ちゃんの帽子が!あれ?最初からかぶってなかった?あ!そうだ、出がけは霧が濃くて帽子はいらないかもと言ったのは私だった!お爺ちゃん怒鳴ってごめ~ん!
お爺ちゃんの親友で介護施設に居るL爺さんの後見人から電話がきて、私を遺産受取人の一人にしてくれるんだそうだ。確かに独身で一人暮らしだったので時々ご飯を持って行ったりしていたけど倒れた時にはやく気付いてあげられなくて治療が遅れてしまったからなあ。
お爺ちゃん「ぐわっ!」どしたの?「このクッキーには紙が入っとる!」ああフォーチュンクッキーだからね。「ふぉーちゅん?」遠方より友来るだってさ。「ふむ」L爺さんの見舞いにでもいこうか?
10月8日
私はお爺ちゃんの介護で仕方なく男子トイレに入ることがある。他の人がいないのを見計らっているが、後から来た男性に遭遇してしまいこともある。私は変な目で見られることはさほど気にならない。何故ならこっちはお爺ちゃんの世話で精いっぱいだから。ただ男性達には申し訳ないとは思うよ。なので単に用を足したいだけのMtFが男子トイレに入れないなんて嘘だよ。周りの目など気にせずにさっさと用を足して出てくればいいだけの話。女子トイレで睨まれるよりましでしょ。
お爺ちゃん、今朝は昨日叔母ちゃんからトマトのおすそ分けがあったから久しぶりにベーコン・レタス・トマトのサンドイッチを作ったよ。パンが大きいから半分こにしようね。「ふむ」ペロッと食べる「それも食う」これは私の分だよ。「食う」ま、いっか。食欲あるのはいいことだ。
実家の母にお爺ちゃんは多分数か月以内に介護施設に預けることになるだろうと言ったら、じゃあ日本に帰ってきて私とお父さんの面倒みてよだって。いや、それじゃ意味ないでしょ。
10月9日
お爺ちゃんもう寝な「眠くない」目をつむってたじゃない「つむってない、休めてただけじゃ」鼾(いびき)かいてたじゃない。「かいてない」寝なさい!
10月10日
「そ~っ」お爺ちゃんの手が私のお皿に伸びてくる。お爺ちゃん、それは私のベーコン、あなたは自分の分もう食べたでしょ!と言う間もなくお口にパク。サラダもフルーツも食べずにベーコンだけ食べて、他人の分までぶんどるとは周到な奴め。
朝食中にお爺ちゃんがこっくりこっくりやり始め椅子から落ちそうになる。お爺ちゃん、まだ寝たりないんじゃないの?寝なおしてきたら?「ふむ?」お昼まで寝てな。
最近涼しくなってきたので日中の散歩を始めたら、お爺ちゃんが開いてるレストランに入ろうとしたり、テラスで食事中の人のテーブルにつこうとしたり、油断すると知らない人と一方的に意味不明の会話を始めるので大変。やはり夏と同じように散歩は人通りの少ない早朝じゃなきゃだめだわ。
10月14日
「ははは」何?お爺ちゃん?「可笑しい」何が?「ジョーク思い出した」へえ。どんなジョーク?「はははは」なんか解らないけど楽しそうなので放っておこう。
10月16日
注意:この先は下の世話の話になるので嫌いな人は飛ばしてください。
朝五時、お爺ちゃんの呼ぶ声で目が覚める。明け方お爺ちゃんがこういう声を上げる時はトイレに行きたいとき。別におしめしてるからもらしてもいいやという軽い気持ちで一応起きる。するとお爺ちゃんがふるチンで歩き回っている。
お爺ちゃん、どした?トイレ?「トイレ」というのでトイレに誘導。事なきを得たのだが、何故下着を脱いでしまったのだろうか?
昼近くになって、そういえば朝一度だけで、その後お爺ちゃんをトイレにいかせてなかったなと思い、トイレに連れていくとすでに用を足した形跡があった。あれ?おじいちゃん自分で行けたんだ、と褒めようと思ったが、お爺ちゃんの半ズボンの前がびしょびしょ。なんでこうなった?
ここで私は以前に衛生士さんから言われた言葉を思い出した。「そのうちどこでも構わずするようになるわよ」衛生士のローザの父親はアルツハイマー末期患者だ。彼はもう足腰立たず寝たきりなので特に問題はないのだが、まだ歩ける時はそこらじゅう歩き回り、外に徘徊するので家のドアはどこもかしこも鍵を二重にしていたという。それでローザはうちのお爺ちゃんの様子をみて自分の父親と同じ道をたどっていることが良く分かるのだ。
しかし私はローザに言われた時に、お爺ちゃんはおしめをしてるからどこでもらしても大丈夫だと高を括っていた。だが彼女が言っていたことの意味が今日解った。認知症患者はトイレに行きたくなるとトイレではないところで用を足そうとしてパンツを脱いでその場で用を足してしまうことがあるのだ。
以前に介護関連の動画を見ていたら、認知症の患者さんがトイレに行ったつもりでリビングルームの真ん中で用を足してしまい、それに気づいて物凄く恥かしかったのだが、自分ではどうやって後始末をしていいかわからず、結局通いの介護士さんに後始末を頼んだという話をカウンセラーの人がしていた。
というわけなので、お爺ちゃんが自分で下着を脱いでしまったことは非常に問題だ。今日はちゃんとトイレに行けたが、今後はどうなるかわからない。
10月17日
今日は一人で出かけたので帰りにお爺ちゃんにチックフィルエーのサンドイッチを買って帰ったのだが、何とチキンサンド一つで7ドル!(ポテトも飲み物も買ってない)なんかファストフードが安かった時代は終わったみたいね。
10月20日
「じ~っ」何みてんのお爺ちゃん「これ、」それはアイスクリーム用のシュガーコーンだよ。「食う」朝ごはん食べてからね。「これ食う」ちゃんと朝のソーセージ食べ終わったらね。「今食う」朝ごはん終わってから!「今、、」飯ちゃんと食え!
おじいちゃん、もう食べないなら歯磨いて。「やだ」歯ブラシ持ったまま何もしない。こうやって磨くの。「嫌じゃ~!」と大暴れ。せめてマウスウォッシュで口を漱いで。「嫌じゃ~」無理やり口にマウスウォッシュを注ぎ込むとペッと掃き出し洗面所が水浸し。😥やれやれ。
お爺ちゃんの歯は丈夫で全部揃っている。数日前まで自分で磨いてたのに今は嫌がってやろうとしない。しょうがないからマウスウオッシュで漱がせてる。そうでもしないと口臭がひどくなるから。おむつは素直に履いてくれるので助かってます。でも時々脱いじゃうことがあるので要注意。
10月21日
ここ数日お爺ちゃんが一人でトイレに行って用を足してるんだよね。引っ越してから自分ひとりで行かれなくていつも私が付き添ってたんだが。私としては自分で勝手にズボンを脱ぐ行為がちょっと不安。今はちゃんとトイレでやってるからいいけど、、、
10月24日
台所を片付けていたら一旦寝かしつけたお爺ちゃんが起きてきた。まだ朝じゃないよ、寝なさい。「アイス食う」今日はアイスお昼と夕飯の後に二回も食べたじゃない。「食っとらん」食べたよ。「食う!」しょうがないなあ。じゃこれ食べたら寝てよね。「ふむ」
お爺ちゃん、寝る前にアイス食べたんだから口濯いでから寝てね。「嫌じゃ」虫歯になっちゃうよ。「アイス食ってない」今食べたじゃない。「少しだった」2スクープも食べたよ。「そうか?」口濯ぎたくないなら歯を磨く?「磨く」よし、じゃ磨いて寝ようね。「朝飯はまだか?」真夜中だよ、、はあ~。
10月25日
数日前届いたのに見過ごしていたL爺さんの後見人からメッセージ。「Lお爺ちゃんから、Dお爺ちゃんお誕生日おめでとう!と伝えてほしいそうです」え?そうだっけ?そうだった!すっかり忘れてたよ。お爺ちゃんはアイスが好きだからアイスクリームケーキ買ってこようかな。
日が暮れたので外に掲げていた星条旗を取り込もうと外に出た、ドアのすぐ横なのでドアを開けっぱなしにしておいたらお爺ちゃんが後ろをすり抜けてしまった。あれ?と思ってたらお爺ちゃんが靴下のままゲートの方へ何時にない速い速度で歩いて行っているしまう。
うちのアパートには表門があるので、部屋を出てもその門を通らないと外へは出られない。門は単にノブを下げればいいだけなのだがお爺ちゃんは一生懸命に門を推してるだけで外へは出られないでいた。それで私が追い付いたから良かったのだが、一人で門をあけて出て行ってしまったらと思ったらぞっとした
徘徊して行方不明になる老人は認知症の初期患者なのだ。周りが未だ患者さんの異変に気付いていないので一人で住んでいたり、家族もいつも通り普通に散歩に出たのだろうとか思ってしまうからだ。うちのお爺ちゃんはだいぶ前から認知症診断が出ているので絶対に一人で外へは出さない。
お爺ちゃんの異変に最初に気づいたのは実はお爺ちゃん本人だ。空港へ人を送って行った帰り道で迷い30分の道を二時間近く走ってしまいとんでもないところへ行ってしまった。なんとか帰ってきたけどこれはやばいと思ったらしい。
10月26日
散歩中お爺ちゃんが「ここ入ろう」と教会を指さす。え?なんで?「ば~べきゅ~」はあ?そこは教会だよ。レストランじゃないよ。あ、そうかここは以前に野外BBQをふるまってくれたところか。そういうことは覚えてるんだな。ダメダメ用もないのに教会にはいったりしたら叱られるよ。
10月27日
お爺ちゃんをお風呂に入れた後は、お爺ちゃんが大騒ぎするからバスルームが水浸しになる。それでタブを洗って床を拭いてとバスルーム全体の掃除になってしまう。私も水浸しなので自分もシャワー浴びるから私のほうのバスルームも掃除。濡れたタオルや脱いだ衣服は即洗濯。すべてがセットだな。
日本在住10年以上の英国人ユーチューバーが日本中の食べ歩きルポをやっている特集を観ていたら、お爺ちゃんが「あそこに行きたい」「あれを食べたい」と大興奮。いや私たち日本に居ないし、第一日本人でも普通はあんな高価なものは食べられないんだよと言ってもだめ。明日はリトル東京にでも行くか。
10月30日
お爺ちゃん、ベーグル持ったまま歩き回らないできちんと座って食べてよ。「お前はな~ほにゃのほにゃ!」はあ?何言ってんの!「ほにゃほにゃららら!」と指差し大声で怒鳴っているが何を言っているのか全くわからない。「あれはどこじゃ!」なにが?地団太踏んで家じゅうを走り回る。さっぱりわからん
食べようとしない時は無理に言ってもだめなので、一旦外出して帰ってきた。おなかすいた?「空いた、なんももくっとらん」食わんと頑張ったのはあなたでしょ。タコスを作るとペロッと二つあっという間に食べてしまった。食べない時は先ず気分転換がいいみたいだな
10月31日
この間普通のアメリカのスーパーで柿を売っていた。こちらでは珍しいので一袋買った。あまり期待していなかったのだが、今朝剥いてるときに一口食べたらおいしかった。
お爺ちゃんの朝食はいつもベーグル1個にリンゴとかオレンジとかのフルーツ+アボカド。最近フルーツに手を付けないことが多いので今日は私の分だけ柿をむいた。Xやってる間にふとお皿を見ると柿が全部消えていた。お爺ちゃん!なんで今日に限って食欲旺盛?
明日は剥いたらすぐに台所で食べちゃおう。テーブルに置くとお爺ちゃんに食べられちゃうから。
ついに10月も終わりだ。今夜はハローウィンだけど私は何もする気はない。両隣のアパートに子供が何人かいるけど、たぶんうちには来ないと思う。なにせアパート内だから。外の住宅街を歩き回った方が面白いだろうし。
11月にはいったら感謝祭なんてすっ飛ばしてすぐクリスマスになっちゃうだろうな。