苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

アメリカ三大自動車メーカーは倒産させよ!

アメリカの金融機関を政府が救済するという話から始まって、民主党は他にも倒産の危機を迎えている大企業を国が救済すべきだと主張しはじめた。はっきり言って政府が市場に口出しするのは好ましいことではないので、どうしても必要な時以外はなるべく手を触れないでもらいたいというのが自由市場主義のカカシの考えだ。 先の共和党大統領候補の一人、ミット・ロムニーも、まさにそう考える保守派のひとり。ロムニーの18日付けのニューヨークタイムスのオプエドから読んでみよう。題して『デトロイトを倒産させよ』

もし、ジェネラルモータース、フォード、そしてクライスラーの重役達が昨日申請したように彼らが救済されたら、アメリカの自動車産業にはさよならの投げキッスをすることになるだろう。一晩でそうなるとは言わない、だが崩壊はほぼ確実に保証できる。

カカシはこのオプエドを読むまでロムニーがビジネスマンであることは知っていたが、ロムニーの父親がデトロイトの自動車会社の重役で、傾いた自動車会社を立て直した経験のあるひとだったとは知らなかった。つまり、ロムニーにとってデトロイト自動車産業は他人ごとではないのである。 ロムニービッグスリーと呼ばれるこれらの会社が立ち直るためには、政府からの救済ではなく、根本的な再構築、いわゆるリストラクチャーリングが必要だと語る。 1)先ず第一に外車との経費差を取り除くこと。いまやアメリカの自動車産業は自動車会社というより従業員や引退者の保険や年金のために存在していると言われるほど、人件費への経費が馬鹿高い。これを諸外国の自動車メーカーの率と同等にすれば、競争の不公平を取り除くことが出来る。またすでに引退した社員への年金の削減もいますぐ実施する必要がある。 ロムニーによるとアメリカの車は一台につき外車と比べ2000ドルも余計に経費がかかっているのだそうだ。同じ値段の車でも外車の方が2000ドル分の高性能が加算されていることになる。これでは競争できないのは当たり前だ。 2)第二に、現在の経営者を首にし、自動車産業とは無関係な産業から新しい人員を募りマーケティングや改革、創造力、労働者関係に富んだ人々を雇う。新しい経営者側は労働者と経営者が敵対関係にあるというような前世紀の考えを打ち砕く必要がある。 また、労働組合が労働者の待遇良化や給料引き上げをもたらした時代は終わりを告げなければならない。新しいUAW(自動車産業労働組合)の方針は、経営者と利益共有や株分配といった形に変えて行く必要があるという。 そして利益も短期的な三ヶ月だの半年だのではなく、長い目で見てその産業に見合った給料や保証を経営者側も労働者も一体となって考えて行く必要がある。無論、労働者の給料引き下げを実施するなら重役も会社の飛行機だの豪華な会議室だのを取り除き、自分らの足を運んで現場の労働者と直接会話を交わすべきである。 自動車産業アメリカの基盤となる非常に大事な産業だ。だからこそ新しい現代社会で競争のできる能率的な産業として生まれ変わってほしい。それには政府の救済ではなく、あえて倒産という厳しい道を選ぶ必要があるのだとロムニーは締めくくっている。 余談だが、これについて左翼変態フェミストの小山エミも、ビッグスリーは倒産させるべきだと書いているのを読んで私は、「え〜?なんで〜?」と一瞬目を疑ってしまった。エミちゃんが支持するオバマビッグスリーの救済には賛成のはずだが。

どうやらオバマが就任するまでGMが持たないということで、議会で救済が議論されているのだけれど、これこそ本当に旧来政治のやり方で嫌な感じ。民主党は労組の活躍で選挙で勝たせてもらった見返りに救済を主張し、共和党はというと政治思想的には自由市場擁護の立場から反対するべきところを、一部の(主に西部の)議員を除いては、工業地帯の票を今後ずっと失うことを恐れてはっきり反対できないでいる。この件については、わたしは西部出身の共和党議員の意見に基本的に賛成。自動車会社の経営が行き詰まったなら、多数の航空会社が行き詰まった時と同じくチャプター11(連邦倒産法第11章)に従って、事業を続けながら再建させればいい。

社会主義で自由市場を嫌うエミちゃんにしてはまともなことを言うじゃない、と思って読んでいたら、案の定、彼女の解決策は産業が個人の福祉を保証するのではなく、国が保証すべきなのだと語っている。

米国型コーポラティズム(に近いもの)において労組が勝ち取ったさまざまな保証や保護が、ビッグスリーの足枷となって国際競争力を奪い、結果としてかえって労働者の雇用を損なっているのは確実。自動車労組が過去の既得権益にしがみついているうちに、サービス産業などをはじめとするより立場の弱い労働者の運動と接点を失い、それが2005年の労組再編を引き起こしたことも、過去エントリ「歓迎すべき米労組全国組織 AFL-CIO の大分裂」で紹介した。

けれどもそれは、既得権益を奪えばそれで良いという問題では決してない。なぜなら労働者として、人間として、保険や年金といったセーフティネットを望むのは当然のことだからだ。とはいえ米国型コーポラティズムは終焉し、自動車労組だけが既得権益に守られる状態ももはや維持不可能なのだから、政府が健康保険と年金に責任を持つ制度に移行することで、今度こそニューディールを完成させなければいけないと思う。

なるほどね。気持ちは解るのだが、会社が請け負うべき労働者への保証を国が補えば、ビッグスリーが倒産の危機を迎えたように今度は国が破産の危機を迎えることになるということをエミちゃん並びに社会主義者は理解していない。いったい国が国民にする保証は誰が支払うのだ? アメリカが経済危機といいながらも、ヨーロッパ諸国よりも強い経済を保つことが出来るのも、アメリカではヨーロッパほど社会主義が進んでいないからである。ヨーロッパでは長い休暇や労働時間の短縮など、国単位で労働者の待遇保証が行われているが、それが結局生産性の低下に結びつき、アメリカと対応に競争できない状態にある。確かに自動車産業ではアメ車はだめだが、他のアメリカ企業の世界市場進出はすさまじいものがある。 アメリカ経済の回復は社会主義を進めることではなく、資本主義を進めることにあるのだ。しかし次期大統領がオバマでは、ことは良くなる前にもっと悪い状態になるだろう。 アメリカよ、シートベルトを締めよ、この先の揺れはもっと激しくなるだろう。