今日kazukazu88@kazukazu881という「エキセントリックなポストモダン新左翼ラディカル・フェミニスト・クィア」と自称する人が、私が言うトランスジェンダー活動家の裏には億万長者の陰謀がある説を、それはロシアが広めた陰謀論に過ぎないと言って来た。これはロシアのプーチンがJKR女史を引き合いに出して西洋社会のキャンセルカルチャーを批判したことから始まった議論だ。確かにプーチンは反LGBTだが、JKR女史は単にトランス活動(TRA)の横暴を批判しているのであり、彼女自身は反LGBTなどではない。プーチンが女史を引き合いに出したからといって、彼女をプーチンと同列に並べるのには無理があるだろう。
私はLGBT活動の裏には強大な権力があるという考え方はロシアの陰謀だという考えは初めて聞いたので、それなりに分析する価値はあると思う。すくなくとも反対派が持ち出す議論には一応目を通しておいた方が、今後の討論に役に立つというものだ。
この論文は欧州同盟の役員によるもの。著者はCecilia STRAND, Jakob SVENSSON
European Parliament coordinator:Policy Department for External RelationsDirectorate General for External Policies of the UnionPE 653.644 - July 2021.題名は"Disinformation campaigns about LGBTI+ people in the EU and foreign influence." (欧州同盟内におけるLGBTI+に関する間違った虚偽情報を広める活動と、外国からの影響)。この論文の目的は、LGBTI+に関した誤ったもしくは虚偽の情報がどのようにEU以外の国によって広められているかを存在する情報を元に説明することにあるというもの。
ではロシアが広めている「偽情報プロパガンダ」が広めようとしているアイデアとはどのようなものかひとつづつ吟味してみよう。
ロシア及び東圏が広めるLGBTI+に関するプロパガンダ
1)LGBTI+許容は西洋リベラルによる「植民地政策」である。
LGBTI+の権利を奨励するのは西洋による「植民地政策」だという主張。これは道徳的に腐敗した西洋が中央および東欧を堕落させるものだと言う説。こうした考えは東欧のいくつかの著述にみられるとしてロシアを含む東圏の論文がいくつか紹介されている。
またよく言われるのが、LGBTI+活動はグローバライゼーションの一貫であるということ。西洋リベラルによるグローバル化は普通一般の人々の価値観から全くはずれるものであると言う考え。西洋リベラルは資本主義で反家族で反宗教で神を信じない人々であるのに比べ、特にロシアはこそが救済への道であるとする説。
2)LGBTI+許容は子供の安全への脅威である。
子どもへの性教育において、にペドフィリアや性自認表現や不自然な性行為を奨励する教育は子供を危険にさらすと言う説。西欧の捕食者的教育のなかには、子供を変態的性指向に変えようとするものだとし、ひいては社会全体にその変態的性指向を広めようというものだいうもの。ロシアはこのような邪悪な性教育から世界を救うものだと主張。その例として西洋の学校では自慰のやり方を教えるなどの授業があるとしている。
3)LGBTI+の人々を否定的な言葉で表す
東圏の書物にはLGBTI+の人々を否定的に表す言葉が散漫している。LGBTI+は道徳的に腐敗しているとか、社会に脅威をもたらすなど。また侮蔑的な表現、英語の‘faggot’ フランス語の ‘pédé’ (French), スペイン語の‘maricón’そしてドイツ語の ‘Tunte’ 等がそれにあたる。こうした書物にはLGBTI+をバカにした理蔑むような表現がいくらも出てくると言う。
また他人を侮辱するときにLGBTI+を持ち出し、「女々しい奴」と言ったヘイトスピーチが普通に行われている。最近はコロナ蔓延がLGBTI+のせいだなどと言い出す人も出ている。
4)ジェンダーイデオロギーは男性の覇権を脅かす
東欧の著者Kuhar and Paternotteは、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、アイルランドポーランド、ロシア、スロべニア、スペインなどの研究で、「ジェンダーイデオロギー(ジェンダー概念)」に抵抗する団結した動きがあると語る。この「ジェンダーイデオロギーー」は西側諸国にはびこるもので特に欧州同盟国で顕著である。 男女平等やLGBTI+権利への探求は男性覇権を脅かすものである。
この反ジェンダーイデオロギーは、女性の権利や人工中絶や同性愛結婚に反対する様々な右翼組織との連帯を成功させている。
この「ジェンダーイデオロギー」は最近では「LGBT イデオロジー」と言う言葉が侮辱的な意味合いでポーランドの書籍で使われるようになった。これはLGBTI+を非人間化するために使われている。「ジェンダーイデオロギー」はジェンダーやLGBTI+平等に対抗するために、一般人を騙すために意図的に作られた言葉である。
5)異性愛と自然な家族制度を守る権利
リベラルのいうジェンダーは人間の種族保存に脅威をもたらすものであるという考え。ジェンダー概念は男女の性別の違いを完全に無視するものであり、よって一人の男と一人の女が結婚して子供を産み家族をはぐくむという結婚を否定するものである。この「自然な家族」という考えが、ジェンダーやLGBTI+へに向けられるヘイトスピーチによく使われている。
6)神が定めた「自然な」秩序を取り戻す
この誤った情報とヘイトスピーチのなかで宗教は大事な役割を果たす。カトリック教会などは、もともと性指向は個人の選択によるという非科学的な説を信じていた。それで以前は同性愛を治す治療などというものが存在していた。
現在でも宗教に汚染された説で、反LGBT側は神や神の計画などいってLGBTI+許容と闘っている。神の計画は結婚や家族の自然な形を守るためという考えが中心にある。そしてこのような考えがLGBTI+の人々への不公平な差別にと繋がっている。
反LGBTI+プロパガンダを広めているのは誰なのかなんてどうでもいい件
さて、この論文の第三章は上記にあげた5項目のプロパガンダを広めているのはどういう団体なのかという話になるのだが、実をいうと私はそれには全く興味がない。何故かと言うと、ロシア及び東欧圏がこのような考えを持っていることなど周知の事実であり、そうした考えを彼らが世界的に訴えていたとして、その行為そのものがプロパガンダだという理由にはならない。
プロパガンダというのは全く事実に基づかないことを不特定多数の人々を騙すために拡散することをいうのであり自分たちの考えを発表すること自体はプロパガンダとは言わない。
例えば中国政府がヨーロッパ系外国人ユーチューバーを使って「ウイグル人が虐待されている事実はない」という動画を拡散すれば、これはプロパガンダと言えるが、単に我々はLGBT思想は伝統的社会を腐敗させるものだと信じると宣言することは、自分の意見を述べているだけであり、それをいうならLGBT思想こそが自由の基盤だと言い張るLGBT活動家たちのやっていることとなんら変わりはない。
だいたいkazukazu88@kazukazu881は、「トランスジェンダリズムの背後には巨大な組織がある」という説そのものがロシアが広めた陰謀論だということを証明するためにこの論文を提示したはずなのに、ここに書かれているのはロシアがLGBTについてどういう見解を持っているかということだけだ。
それにここでロシアが挙げている考えには一理も二理もあると思う。それに関してひとつひとつ書いていくのは時間がかかると思うので、またそれは次回に回すことにする。