苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

オープンハウスで感じる、我が家を売る苦痛

先日から何度か我が家を売ってアパートに引っ越すという話をしているが、いよいよ本格的に家が売り出された。私はこの家の前はマンションだったので、売りに出すのはそんなに大変ではなかった。それに買いたい人がすぐに決まって値段交渉もスムーズだったので、全く苦痛を感じなかった。またこの家を買った時も、買う方はさほど努力はいらない。何軒か自分に合いそうな物件を見て回り、気に入った家にオファーを出すだけ。後は住宅ローンを取り付けられればそれで終わりだ。

しかし売る方はそうはいかない。家が売れる状態にあるかどうか色々検査される。電気、下水、屋根の状態、カビ、シロアリなどなど。あと古い家なので今の時代の建築規制に合っているかどうかなども色々調べなければならない。そして地元政府がこの家はどのくらいの価値があるのかを査定に来る。査定より高い値段で売り出すと買い手がつかない。

そしてそうしたことと並行して買いたい人が家を見に来る時間を設ける。私たちがこの家を買った時は、元家主はすでに他界しており、その息子が家を処分するという状況だったので家のなかは空っぽだった。しかし今回は私たちが未だ住んでいる状態なので、人が見に来るのはちょっと大変。

それで不動産屋がよくやるのは、日時を決めてその時だけ誰もが見に来れるオープンハウスというのをやる。それを今週木曜日から日曜日まで一日三時間づつやることになった。その間立ち会うのは不動産屋さんだけで、我々住民は留守にしなければならないのだが、我々が居ない間に知らない人が何人も家のなかをうろうろすると考えると非常に嫌な気分になった。

初日のオープンハウスが終って帰宅すると、家の中には嗅ぎなれない異臭が漂っていた。私は子供の頃から嗅覚が優れており、自分が居ない間に来客があったりすると、その人が帰った後でも来客があったことがすぐわかるほど鼻が利く。来客が一人でもそうなのだから何人もの人が出入りしたら家じゅうものすごい数の体臭が漂っているのを感じて気分が悪くなった。

三日目の今日などは、帰宅すると壁にかかっていた絵の額についていたガラスが割れていた。不動産屋のセルマは申し訳なさそうに「子供がいじって落としてしまった」と語った。オープンハウスに子供なんか連れて来るな!まあ高価な額縁ではないから別にどうってことはないが、仕方なく壁にかかっていた絵は全部取り外した。

嫌だな、この家を手放すのは。自分で決めたことなのに。

いやいや、何を今更。もう後戻りはできないのだ。

だいたいどうしてこの家を売ろうと思ったのかと言えば、庭が広すぎて手入れが大変。部屋数が多すぎて掃除が行き届かない。かといって庭師や家政婦を雇うのは年金生活ではちょっと厳しい。それに古い家なので常にあちこち修繕が必要で、その度に多額の出費。ちなみに去年、下水と電気配線の工事で100万円近く使ってしまった。また裏庭にあったイチジクの木が大きくなりすぎて切ってもらった時もかなりの値段だった。それに広い家は光熱費もかさむ。

それに一番の理由は家の住宅ローン。実は2年前の改築の時にお金を使いすぎてしまい、せっかくそれまで返していたローンが再び元の額に戻ってしまったのだ。30年ローンだがローンを払い終わるまで生きていられるとは思えない。だから元気なうちに売ってしまった方が心残りがないと思ったのだ。それでいくらかでもおつりがくれば儲けものだし。

本心をいうと私はこの改築に関して、口のうまいリモデル(リフォーム)会社の人に騙されてやり過ぎたと思っていた。最初はお風呂場だけのつもりで依頼したのに、台所だの屋根だの窓だのなんだかんだ、あれよあれよという間に家中の改築になってしまったのだ。何か加わるごとに業者さんが「直したところが多ければ多いほど家の価値が上がるんですよ」と言うのに言いくるめられてしまったのだ。

しかし、どこを改築したかという話をセルマにしたら、直した分だけ家の価値は上がるので、改築に使ったお金より高く売れると言われて安心した。

家を売った後に引っ越すアパートはすでに決まっている。数日前に鍵をもらいに行き、新しい家具などを揃えるために色々計ってみたが、やはり今の家よりかなり狭い。嫌だなこんな狭い部屋と思ったのだが、そこでまた自分に言い聞かせる。今の家と同じ広さだったら引っ越す意味がないでしょうが!

オープンハウスは明日で終わり。後はオファーを待つばかり。いい値段で売れますように!