苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

HEROES(ヒーローズ)20年前のテレビドラマシリーズを見た感想

先日親戚の叔母ちゃんにお爺ちゃんがいつも同じDVDを観ているという話をしたら、うちに沢山DVDがあるからあげると言い大きな段ボール箱二つに入ったDVDの山を押し付けられた。私は引っ越しに先駆けて自分のDVDを山ほど処分したばかりなのに、他人のDVDをこんなに貰ってきてどうしたらいいんだろうと思ったが、叔母ちゃんは単に自分の家の整理をしたいだけなんだろうと思い直した。彼女にも貯め込み癖があるので、こういうことでもないと処分する決心がつかないのかもしれない。

彼女のコレクションの多くは私には興味のないものだったので、ほとんどは近所のチャリティーに寄付したが、二つほど私の興味をそそるものがあった。それはHEROESとLOSTというSFシリーズである。これは二つとも20年前に放映されたもので、LOSTは放映当時部分的に観た覚えはあるが、HEROESの方は話には聞いていただけで一度も観たことがなかったので最初に観ることにした。

あらすじ:2003年当時のニューヨーク、アメリカ中で特殊能力を持っている人々が半年くらい前から自分の能力に気付き始める。人々の能力は個人によって異なり、空を飛べたり透明人間になったり、炎のように燃えたり、致命傷を負っても死ななかったり、人の心が読めたり、絵を通じて未来が予測できたり、時空間をテレポートするなど色々だ。

或る日その中の一人、日本人でコンピュータープログラマーをしているしがない会社員中村ヒロ(Masi Oka/岡 政偉おかまさよ)はテレポートに成功しニューヨークのど真ん中に瞬時移動する。そしてそこで見つけた自分を主人公にした漫画本を見つけ、自分は世界を救う役目を担っていると悟る。テレポートして日本に帰ったヒロは同僚で親友の安藤(James Kyson)を説得してニューヨークに居る漫画家アイゼック(Santiago Cabrea)に会いに出かける。アイゼックは絵を通じて数週間後にニューヨークで核爆発のような大爆発が起き何百万という人々が犠牲になることを予測していた。

突如人々が特殊能力に芽生えたのは、それぞれが、この悲劇的爆発を阻止し世界を救うために何らかの役割を果たすためだった。

このシリーズはアンサンブルキャストと言って一人の主人公ではなく何人かの主要人物にそれぞれ筋が分けられている。これはアメリカ特有の古いソープオペラ(メロドラマ)形式だ。一つのエピソードは正味50分くらいのドラマだが登場人物が多いのでそれぞれの持ち時間はさほど長くない。つまり視聴者はいくつかの話を同時進行で追っていく形になる。ただ何年も延々と続くソープオペラと違って、このシリーズでは最終的に一つの目的に向かってそれぞれのキャラクターの話がまとまる必要がある。最初はバラバラで無関係に見える彼らの話が最後どのように折り合いがつくのか、そこが観ている方にとっては興味をそそられることになるのだ。

英語では話の筋をアークというのだが、シリーズが長く続く場合には必ずしも一つのシーズンでそのアークが完結するとは限らない。私が貰ったのはシーズン1だけなので、このシーズンで完結してくれないと次シーズンのDVDも買わなければならなくなるなと心配していたのだが、一応一つのアークはシーズン1で完結した。

とはいうものの、結構いくつもエピソードがあるため、話が色々と意外な方向へ転向していく。どんでん返しというほどのものではないのだが、回を追うごとに今まで信じていたことが全く別物であることが披露されるので、何を信じていいのか分からなくなり落ち着かない。世界を救うという一つの目的に向かって話が進むと先ず視聴者に伝えた以上、もっと焦点を絞ってほしいと思った。

また登場人物が多いせいで、視聴者が感情移入をした大事なキャラクターが途中でいとも簡単に殺されてしまう。題名はHEROES(英雄たち)だが、主人公は絶対に死なないと解っているスーパーマンスパイダーマンみたいな所謂ヒーローものとは根本的に違うので、どんなキャラクターも最後まで生き延びられるという保証はない。

だから自分の好きなキャラクターが死んでしまうかもしれないという緊張感があり、最後まで気が抜けないのだ。

一応シーズン1では世界を救うというアークは完結する。ただすべての伏線がきちんと説明されないままになっている。このシリーズはシーズン2にも続くので、もしかしたらそこで説明があるのかもしれない。では下記に主要な登場人物についての感想を書いてみよう。

ノア・ベネットとクレア・ベネット父娘

シーズン1の前半はクレア(Hayden Panetiere)というチアリーダーとその父親ノア(Jack Coleman)の話が主流だ。クレアはどんな怪我を負ってもすぐに自然治癒し怪我では絶対に死なない能力を持っている。その事実を知っているのは彼の親友ザック(トーマス・デカー)だけ、とクレアは思っていたのだが、実は父親はその事実を知っていた。ノアは表向きは製紙会社の重役ということになっていたが実は世界中にいる超能力者を研究する組織の一員で、クレアは超能力者の可能性があるとして赤ん坊の頃に組織から預かっていたのだった。クレアは自分が両親の実の娘でないことは知っていたが、どんな経緯でベネット家の養女になったのかも父親の正体も知らなかった。

この父親と娘の話はかなりメロドラマ風で私はあまり面白いと思わなかった。家では非常に家庭的で優しいノアが職場では冷血な工作員と言う設定は面白いのだが、実はノアは本当に優しい父親だったりするので、一体どちらが本物のノアなのだろうかと混乱する。

クレアのキャラクターは純真爛漫な高校生として終始一貫しているが、ノアの見せる顔は相手次第でコロコロ変わる。言ったどれが彼の本質なのか最後の方までわからない。

ピーターとネイソン・ペトレリ兄弟

超能力者の研究をしていたインドの学者チャンドラ・スレッシュ博士(Erick Avari)がニューヨークで何者かに殺された後、父の研究を引き継ぐべくニューヨークに来た息子のモヒンダー・スレッシュ博士(Sendhil Ramamurthy)は父のリストに載っていた一人ピーター・ペトレり(Milo Ventimiglia)に連絡を取る。

自分にはこれといった能力はないが、絵を通じて未来が見えるアイゼックを紹介すべくピーターはスレッシュ博士をアイゼックのアトリエに案内する。あいにくアイゼックは留守だった。スレッシュと共に帰りの地下鉄に乗っていたピーターは、突然刀を背中に背負った男(未来のヒロ)の訪問を受ける。男は「チアリーダーを助けて世界を救え」と謎の言葉を残して消えてしまう。

ピーターの超能力は他の超能力者と接触すると何故かその人の能力を持ってしまうということが徐々にわかってくる。

ピーターに超能力をコントロールするように指導するクロード(Christopher Eccleston)役に9代目ドクターWHOを演じたクリストファー・エクルストンが出て来たのには驚いた。彼は声とアクセントが独特なので風貌はかなり違っていたがすぐに解った。

クレアの父親ノアと同じことがピーターの兄ネイソン(Adrian Pasdar)にも言える。ネイソンの超能力は空を飛べること。彼は弟のピーターをとても愛しており、弟のためなら何でもする頼りになる兄でありながら、影では悪徳なマフィアの親玉と繋がっていたりする。エピソードによって善人だったり悪者だったりコロコロ変わるので、よくわからないキャラである。

サイコパス連続殺人犯サイラー

実はもう一人他人の超能力を集める能力を持っている男がいた。その男の名前はサイラー(Zachary Quinto)。ただピーターと違ってサイラーは超能力者を殺して初めてその能力を得ることができる。それでサイラーは国中の超能力者を探し当てて全員殺して自分が万能の超能力者になろうとしていた。

ピーターは謎の男(未来のヒロ)からチアリーダーを助けて世界を救えと命令されニューヨークからテキサスまでクレアを救いに行く。これがピーターとクレアの出会いとなるが、このクレアを殺しに来たのが誰あろうこのサイラーだった。サイラー役のザカリー・クイントはどっかで観たことある俳優だと思ったら、2009年から三部作となったスタートレックのリブート映画でスポック役を演じた役者だった。彼は非常にハンサムなのだが、何となく神秘的で怪しい魅力がある。このサイコパスの悪役は適役だ。

冴えない警察官マット・パークマン

この11年も警察官やってるのに未だ交通整理をやってるうだつの上がらないマット・パークマン(Greg Grunberg)は私が好きなキャラクターのひとり。特に凄く格好いいわけではないのだが、何となく親しみのもてる顔。彼の能力は他人の考えてることが読めること。そのせいで妻の浮気を知ってしまい先輩の警官を殴って警察官を半年間の無給料謹慎処分を受ける。しかし人の心が読めること、そして元々善良な人間であることから、この才能は色々と役に立つようになる。

ヒロ&アンドウ

登場人物の中で私が一番好きなのは日本人サラリーマンの中村ヒロとその同僚・親友の安藤君の掛け合いである。シリーズそのものは非常に重たく時に悲しく時に残酷な話なのだが、この二人のシーンはコメディ―タッチ。しかも彼ら二人のセリフはほとんどが日本語というのもおもしろい。特に安藤君役のジェイムス・キーソンは明らかに日本語話者ではない。

ヒロ役のマシ・オカは日英完全バイリンガルだが、ほとんど英語はしゃべれない設定なので最初の方は英語がかなりすごい日本語訛り。登場頻度から言うと一番の主役はチアリーダーのクレア・ベネットとその父親ノア・ベネットそしてクレアの命を救う任務を負う万能超能力者ピーター・ペトレりなのだが、明らかにハリウッドスターの美男美女キャストたちよりもまん丸顔に眼鏡のヒロとその相棒の安藤の方が観ていて面白い。明らかにそう思ったのは私だけではなく、シリーズが始まると同時にヒロの人気は爆発的に上昇。特に彼がテレポートに成功してニューヨークに現れた時、空を仰いで「やった~!」というシーンは子供たちがこぞって真似するという人気ぶり。その年のエミー賞助演男優賞候補にまでなった。

私がヒロが好きなのは、彼は時空間テレポートが出来るという以外はこれといった力を持っておらず、しかもそれすらうまくいかずおかしな時間や場所い行ってしまい、ドジばかり踏んでいるところ。後に刀を手に入れて忍者のように背中に背負うようになるものの、剣術はさほどうまくなく、悪者のサイラーと一騎打ちになっても簡単に負けてしまうのだ。だから彼に必要なのは腕力ではなく勇気と熱意である。最初からなんでもかんでもできるヒーローではなく、親友の安藤との数々の冒険を乗り越えて成長していく姿はすがすがしいのだ。

ところで安藤君の日本語は最初はものすごい朝鮮語訛り(キーソンは韓国出身)で何を言ってるのかさっぱりわからず英語字幕を読んでなんとか追えたのだが、回が進むにつれ私の耳が鳴れたのかキーソンの日本語力が上達したのか不自然さがなくなった。自分の理解できない言葉を使ってここまで説得力のある演技ができるというのは、さすがプロの役者だなと思った。演技力からいうとキーソンの方がマシオカよりずっと上だ。ただマシオカは非常にチャーミングなのが魅力である。

ヒロの父親役にスタートレックで有名な日系俳優ジョージ・タケイが出ている。彼は日本語は話せるはずだが、かなり英語訛りがきつい。たださすがベテラン俳優だけあって貫禄がある。

もうひとり日本人でハリウッド俳優をやっている松崎悠希がもの凄いちょい役で出てたのには笑ってしまった。彼はヒロの同僚男性で「お前、アメリカに旅行にいってたんじゃないのかよ」という意味のセリフがひとつあっただけ。まあ20年前の話だからまだ新人だったんだろう。

意味不明な登場人物、ニッキー・サンダース

私はニッキー・サンダース(Ali Larter)というキャラクターがこの話に存在する意味が理解できない。彼女は二重人格者で昔死んだ双子のジェシカが彼女のもう一つの人格として登場する。ニッキーはごく普通の若いシングルマザーだがジェシカは怪力の殺し屋。ニッキーの内縁の夫で自分と息子を置いて出て行った息子の父親DLハ―キンス(Leonard Roberts)と息子のマイカNoah Gray-Cabey)にもそれぞれ超能力がある。しかしこの三人は特に世界を救う目的の役に立っていない。チアリーダーの筋ともピーターともヒロともつながりがない。単にセクシーな女性にアクションシーンをやらせたかっただけのような気がする。ニッキーを巡るアークには全く興味が持てなかった。