苺畑より In the Strawberry Fields

苺畑カカシと申します。在米四十余年の帰化人です。

若干20歳の女性歌手が見せた勇気、ユーロビジョンでイスラエル代表が人気投票二位に輝く

スエーデンのマルモで行われたヨーロッパのプロ歌手が集まって毎年行われる歌謡コンテスト「ユーロビジョン2024」が昨日幕を閉じた。今年の優勝者はスイス代表のノンバイナリ自認の男性Nemo。しかし優勝者よりも話題になったのはイスラエル代表のエデン・ゴラン(20歳)である

ユーロビジョンは欧州の歌謡祭なのでアメリカは参加していない。それでアメリカではさほど話題にならないので私も勝者を決めるシステムはよくわからないので調べてみた。複雑すぎるのでちょっとだけ説明すると、予選・準決勝・決勝とあり、投票はプロの審査員(50%)、参加国視聴者投票+非参加国視聴者投票(50%)となっている。参加国視聴者は電話やテキストで投票できるが自国代表歌手には投票できない。非参加国視聴者はネットのみで投票できるが、投票できる時間が制限されている。

エデンは「ハリケーン」という10月7日をテーマにした歌を披露。当初の題名は「10月の雨」だったがユーロビジョンでは政治活動をしてはいけないという厳しい規則があるため、題名と歌詞を多少変更してのパフォーマンスだった。エデンは決勝に残り最終審査で25人参加者中5位という良い成績を収めた。

グランドファイナルの勝者は、参加国の審査員と観客のテレビ投票の組み合わせによって選ばれる。ゴランの言う通り、ヨーロッパの文化専門家グループが今年のコンテストでイスラエルの歌を高く評価しなかったのは当然のことであり、これらの審査員はほとんどが「The Code」を支持した。しかし、イスラエルがテレビ投票でクロアチアに次いで2位になったことは、多くのイスラエル人や世界中のユダヤ人にとって喜ばしいことだった。イスラエルハマスとの戦いに反対する少数派の抗議者たちがいる一方で、明らかに世界中の何百万人ものユーロビジョン視聴者がイスラエルとそのユーロビジョン代表を尊敬している。

タイムズ・オブ・イスラエル紙によれば、投票権を持つ37カ国のうち、14カ国の有権者とすべての非参加国の有権者が、一般投票でイスラエルに最大ポイントの12点をもたらした。イスラエルが 「その他の国 」の票を獲得したのは2年連続である。エルサレム・ポスト紙によれば、イスラエルは合計で323ポイントを獲得したという。

エデンの出場が決まる数か月前から反イスラエル主義の連中からイスラエルの出場を抗議する声が上がっていた。大会前から何千という歌手がヨーロッパブロードキャスティングユニオン(EBU)にイスラエルを参加させるなら自分らはボイコットすると前代未聞の抗議をした。

またイスラエルチーム及びそのファン達に対しても深刻な脅迫があったため、イスラエルの対テロ組織、シンベットのリーダーがわざわざマルモまで出かけて行って現地での警備体制を監督した。100人のスウェーデン警察官が、国家元首のように窓を黒く塗りつぶした車列で移動するイスラエル代表団を守るために配備された。ゴランとその側近は、公演がないときは常にホテルの部屋にいるよう勧告された。

歌謡祭会場の外では数千人の親ハマス群衆が集まり彼女の参加を抗議した。環境変動活動で悪名高いグレタ・サンバーグ率いる抗議団体もその中に含まれていた。

他の国の参加者たちもわざとらしくエデンに嫌がらせをした。特に酷かったのはアイルランドのバンビ―・サグ。彼女はイスラエルが最終戦に残った時は悲しくて泣いたなどとインタビューで語っていた。(ちなみにそのインタビューで彼女がパレスチナ支持のショールを着ていたことから、彼女は大会の政治活動禁止に触れているのではないかという疑いがもたれている)。ギリシャの歌手は合同記者会見中に居眠りをするふりをしたり、オランダの歌手は顔をオランダの旗で隠すなどした。

特に酷かったのはポーランドの記者がエデンに対して「あなたがいることで他の参加者に危険を及ぼすとは考えたことはあるか」と質問したことだ。EBU司会者は彼女にその質問には答えなくていいと言ったが、エデンは毅然とした態度で「私たちは皆一つの目標のためにここに来ています。EBUは安全のために最善を尽くしています。この場がすべてに人が一緒になり安全であるように。ですからすべての人が安全だと思います」

エデンのパフォーマンスの間もブーイングが絶えなかった。また得点発表の際に絵伝に加算される度に観客席からブーイングが飛んだ。実況放送をしていたオーストリアのテレビ局の司会者はこのあまりのヤジぶりに腹を立て「黙れ糞ったれ」と生放送でつい言ってしまったほどだ。

彼女の最終パフォーマンス中にも彼女へのブーイングが止まらず、よくこんな状況で若干20歳の彼女が怯みもせず堂々と歌えるなと感心した。もっともブーイングよりも彼女を応援する声援の方が大きく、そのブーイングはかき消されていたようにも思えたが。

最終パフォーマンスが終って舞台を降りたエデンは、舞台裏でスタッフに囲まれながら泣き崩れた。張り詰めた気持ちが一気に切れたのだろう。よくやったよエデン、命を狙う恐ろしいテロリストたちが何千といる中で怯まずにうたった彼女は英雄だ。女神だ。さすがイスラエル人は逆行に強い。